所謂リベンジ、雪辱戦であって。こんな日に。
「うん、素敵だねえ…」
ガラスケースが曇る程顔を近づけ酷卒はそう言った。
その顔はまさに恍惚の表情で。
「…何が…その、楽しいんですか?」
「うん?触りたいけど汚しちゃうから触れないでしょ?
だから汚れないようにこうやって飾っておくでしょ?ずっと綺麗なままでしょ?」
「はあ」
「それがたまらなくないかな、かなあ?」
「…はあ…」
「こうやってずっとケースに飾っておけば君は金輪際世の中の光化学スモッグにも汚されず
ハウスダストも松の花粉さえも君に触る事が出来ずに一生美しいままなんだよ」
「多少息苦しいんですが」
「そのうち楽になるよ」
いや、それはまずい。
きゅうう、とガラスに顔を擦り付け恍惚の表情を浮かべていた酷卒が静かに目を開いた。
にんまりと、歯を見せながら笑い、踵を返し、言う。
「ねえ、さっさと入ってきたらどうだい!!」
言葉に応えるかのように赤の扉は勢いよく開いた。いや、蹴り開けられた。
其処に佇むは半刻程前に酷卒にけちょんけちょんにやられた人物、
極卒だ。
「雪辱を晴らしに来たぞ、金髪豚野郎」
「口が悪いねえ弟君。大衆文化のテレビジョンにでも感化されたのかい?」
二人は睨み合ったまま、動かない。皇国、基、赤黒戦とか言うんだろうか。
いや、でもあの人は見た目が白いから紅白戦でもあながち間違いじゃないかも…
それにしても今日は大分立ち直りが早いな、なんてぼんやりと考えながら
は深くため息を吐く。
うっすらと、ガラスケースが曇った。
「で、何で私まで参加しているのでしょうか?」
「二人だけでババ抜きなんてナンセンスじゃな~い?」
「それに関してはボクも同意だ。二人でやるもんじゃないだろう」
はあ、さいですか。と
は捨てた5のペアを見た。
極卒、酷卒、
の順で時計回りに進んでいるのだが…、
「はい
ちゃんどーぞっ」
「はい…では、これで」
「どうぞ」
「…ふん」
上記は酷卒の手札を
が取り、
の手札を極卒が取る、と言った会話で。
ちなみに
が質問をする直前の簡単なやり取りだ。
そう、実に簡単な。
「さーてどれ取ろうかな、っと」
「…ちょっと待て」
「何?またシャッフル~?そんな事しても無駄だヨ?」
「っうるさい!」
がしょがしょと不器用に手札をシャッフル…というよりごちゃごちゃにする極卒をにやにやと見透かしたかのように嗤う酷卒。
「ふふふ~動揺してるね?感じちゃってるね?
ちゃんも待ってるんだからさあ、早くしてねっぶ!!」
笑っていた酷卒のツラはトランプの束と共に机に沈んだ。
めり込んだ衝撃でばらばらとトランプのペア達が飛び乱れる。
「室内ゲームなんですから手を出すのはどうかと…あと、」
「うるさいうるさいうるさい!!!コイツが気色悪いのがいけない!!!」
いまいち噛み合ない会話に
は眉根を寄せた。
言いかけた言葉を飲み込まずそのまま続ける。小さな、小さな、
「…私、上がったんですけど…」
「…はあ!?」
小さな、勝利宣言だった。
「ーで、どうしようか」
「…だから何で私まで、って聞いたのに…」
「自分が勝ちそうな気配があったらもっと早く言えば良いだろうが」
そんな無茶苦茶な。と言えば何処か悔しそうな目で極卒に睨まれる。
うぅ、と小さく
が鳴いた。
「で、どうしよっか。本当に」
「もう一回仕切り直しに決まってるだろうが。戦利品が勝者だなん「あの」
発言を遮って
が手を挙げる。
「はいはいどうぞ?」
「おいちょっと待て…」
「今日は、私が勝者なんですよね?」
「…ああ」
「勝者は戦利品を好きなように使っていいんですよね?」
「うん、そうだね」
じゃあ、と言ってにっこりと
は笑った。
「たまには…三人で外に出ませんか。おべんと持って。お腹空きましたし」
「…っ、う~…」
むすっとした顔の極卒が言葉に詰まった。
朗らかで、優しい勝利の笑顔に正しく負けた訳で。
「…後でもう一回雪辱戦だからな!」
「室内ゲームは雨の日に限るんでしょ?」
「お弁当何にしましょうか…」
三人が次々にテーブルを立つ。何故だか悔しそうな者一人、弁当の中身を考える者一人、後ろから二人の肩を抱く者が一人。
窓の外から見える景色は、いつの間にかすっかり晴れていた。
まだ少し、湿ってそうだったけれども、
きっとそんな事は気にならないのだろう。
だって彼女は、
室内ゲームの王様
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パラレル的なプロトタイプはとむね終わりです。
最後にでかでかタイトル置くのちょっと夢だった(笑)