日常、壱。







殴る、蹴る、の暴行。





…と言うのは彼、極卒の部下をしていればごく普通に見かける光景である。

見かける、と言うからには勿論対象ある程度は決まっていて、

「ええい気色悪いッ!!」

「あふっ!」

ごん、と割と痛そうな音を立てながらその対象の一人、酷卒は机に沈んだ。
書類が舞い上がり、静寂が戻る。

「…あのひゃあ、いたいんらけど…」

「うるさい」

べりべり机から顔を剥がす酷卒を横目で見ながら極卒はそれを鼻で嗤った。
いたいなあ、と言いながら彼は書類を持って部屋を出て行く。

書類に塗れたみかん箱の近くで、それを見ながら
ふと、思ったのは。


「二佐って痛い、とか言う割にはけろりとしてますよね」

「そこだ!!」


ばあん!と激しく机を叩き極卒は身を乗り出す。

「そこが余計に気色が悪い」

「そんな…」

はは…と苦笑いをしながら

は舞い散った書類を片し始めた。

「昔からいつもあれだ。どんなにどついても痛いとは言うものの顔色一つ変えない」

「あんまり痛く感じない…とかですか」

「はあァ?」

目を見開きしかめ面、ついでに飛び出した白い手が

の頬をつねる。

「痛く無いのか?だったら仕置きはもっと痛いものを考えなきゃいけないな~?」

「あでででぃいいた、いで!!す!!!」

「きょひょ!当たり前だろうが!

…やっぱりお前の反応は安心するな」

つねりにつねった指を放し、極卒はぼそりと呟いた。
そしてばさばさと机の上の残りの書類を落とし、再び勇ましくばあん!…と。

「ど、…どうしたんですか…びっくりした…」

「どうやったらあいつをギャフンと言わせられると思う」

「は、はあ!?」

今時ギャフン、はどうかと思います。そんな言葉を喉の奥に飲み込みながら

は目の前の上司の顔を伺った。
少し薄暗い部屋に浮かぶ白い顔は少し上気しているようにも見えて、
眉間に皺、何を言っているのか分からないが忙しく口は動き、
視線はもう何処へ向いているのか、あちら、こちらとせわしなく動き回る。

早口なのと、少し勢いに気圧されてまともに頭には入って来ないが、

鋏を見ては舌先を二股に…とか、視界に入ったペーパーナイフを手に取り爪を剥が…とか、
裂くだの、剥がすだの、射し込むだの物騒な言葉ばかり聞こえる。
…寧ろ聞きたく無いのだが。
ぶんぶんと頭を振り

は暴走する上司に言葉をかける。

「あ…だ、駄目ですよ!そんな痛そうな事…!!」

「痛そう、では駄目だ。痛く無くてはな!」

けたけたと笑う極卒はじわりじわりとみかん箱の向こう側の

へにじり寄った。
その顔は実に楽しそうで、彼の気持ちを実に分かりやすく表現するならば、

「そう…痛くなくてはなァ…」

「…は!?え…あの?」

“やつあたり”とか、“ただいじめたいだけ”とか、だろうか。

「痛そうかどうかはやはり試してみなければ分からないからな~」

「はあ!?」





とどのつまり





「…どおだ!痛かっただろうが!ぎゃふんとか言え!!」

「あー、うんうん、ぎゃふん!コレで良いかな?かな?」

「ぐうういいいいい」
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虐められ損な主人公さんとか。
基地内の日常を書いてみよう的な感じで。