青春の証です。






気になる。





「うぅ…む」

ポリポリと顔をかく極卒。その指先には小さな、にきび、吹き出物である。

「痒い」

「かかない方が良いと思いますが…」

「痒いもんは痒いんだ~。かいて何が悪い」

「…はぁ、ごもっともですけども…。痕になってしまいますよ?あ、そうだ…これを…」

コトリ、と机の上に

は小さな容器を置いた。
新品同様の小さな容器には小さなキャラクターがにっこりと笑っている。
その笑顔の相反するように、極卒は眉間に皺を寄せた。

「肌荒れに良く効く塗り薬です」

「コレを?ボクに?」

「はい。にきびはストレスが原因で出来るとも言いますし…。早めに対処した方が良いかと」

「…お前はよくにきび出来るのか?」

「え?まあ…それなりに…」

「そうかそうか…貴様は普段ボク、

…このボク!の配下に居るにも関わらずストレスを感じて居ると?」

「え?!…えええ?」

「ほお…?」



…極卒も、それなりにストレスを溜めている…と言う事だろうか。

「うう…」

真っ赤に染まった頬を撫でながら若干涙目の

は呻く。

「最近このパターンばっかりじゃないですか…?」

「殴る、蹴る、縛る、辱めるのどれでも好きなものを選ぶんだな」

「つねるで構いません…」

「そおだろうそおだろう…っと。結構難しいなコレ」

手鏡を睨みながら極卒はむううと顔を捻る、捩る、試行錯誤。

「…何をしてらっしゃるので?」

「オイ、上手く付けられないぞこれ」

「鏡は左右反転するんですよ」

「馬鹿にしてるのか?あん?」

「…」

「…」

暫しの沈黙。再び鏡に向かう極卒。

「…っ」

そして、呻き声が。

「…付けましょうか?」

「っさ!…さっさとそーしろ!!」





クリームを掬い取る指に、じろりと真っ黒な視線。

「…お前、少し爪が伸びてるな」

「あ、申し訳有りません。すっかり忘れてまして…」

ふ、と

が一瞬考え込み、

「って三佐も爪伸びてるじゃないですか…しかもマニキュアまで」

「ボクは直接手を下さないから良いんだ。お前はどうだ?

長く衛生的に宜しくない爪で怪我人を治療するのか?」

「て…手は良く洗って…ます…ですはい…」

「あん?聞こえないなァ?サァさっさと手を動かし給え」

「はい…」

指の腹から関節へと緩いクリームがもどかしい遅さで垂れ、少し困ったような、神妙な面持ちの

が顔を近づかせて、極卒のその赤く膨らんだそれに指を、這わ、

「ひっ」

「へっ?」

触れるか触れないかの所で極卒は顔を引いた。
顔を、と言うより頭全体の方が表現としては近いのかも知れない。
余りに強引に引いた為にごりゅ、と言う余り宜しくない音が幽かに聞こえた。

「さ、…さんさ?」

「いいいいや、何でも、無い!!」

「塗らないんですか?」

「い…いやそう言う訳じゃ」

「?」

頭に沢山はてなマークを浮かべながらも構わず

はその塗れた指を極卒の顔に近づけた。
どうもこの娘は肝心な所で鈍感と言うか、図太い所が有る。

「くっ…」

「はあ」

がくりと伏せた顔は耳の先まであのにきびのように赤くなっていて、かたかたと小刻みに肩が震える。
明らかに、様子がおかしい。

「体調が悪いんですか?ど、どうしたんですか…」

「…っ」

「さ、さっきからおかしいですよ…。本当に大丈夫ですか?」

「…たい」

「はい」

「…くすぐったいんだ」

「はい?」











「っい、もっ、…もう少しっ、何とか出来んのか!?」

「無茶苦茶言わないで下さいよ…」

くう、と小さく呻いた極卒がちょっと待て、と手を出し言った。
笑いで歪んだ顔をキリッと体裁を整える。

「よし、良いぞ」

「もう顔が崩れかけてます三佐」

「良いからやれ!!」

では、と

が軽く指を差し出せばやはりぐにゃりと顔は歪み、

「っ、ぶはっ、ははっ、あ、ふ…っふざけてるのな!?」

「そんな逆に神妙な顔をするからですよ…触れてもいませんし」

「くすぐったいの我慢しないともっと長引くだけですよ」

「ぐ…ぐううううぃいい」

ぐういぐういと喚く極卒を横目で見ながら、

(飲み薬もあるんだけど、もう少し黙っておこうかな)

なんてこっそり思ったのは秘密だ。









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たまには逆転の立場で。