スプーンを握って臨戦態勢に入ったサンタをが止めた。怒りの余り折角整えてやった髭も乱れる有り様で。

「何かをしてもらいたい、なら力任せは駄目…だ」

「お前の持ち主が従っても私は従わない」

どうしたら良いか分かるだろう?と痛みを堪えながら彼女は語る。
最初は他愛もない我が儘だったのかもしれない。
その余りに強い力にどこか怯えながら、カイリキーの主人は彼を甘やかしてしまったのだろう。慌てて主人の威厳を取り戻そうとした時にはもう手遅れで。

てこずって、悩んだその結果が、彼を閉じ込めておく…と言う最悪の結果。


関係を修復も出来ず、躾る度胸も無く、ずるずると。


「…どう、して欲しいんだ?」


が首を傾げ、彼を見上げた。目は逸らさない。真っ直ぐに向き合う。
やがて肩に食い込んだ手をカイリキーはおずおずと外した。

「うん?」

「ぐう…」

手に引っ掛かったタオルを受け取り、再び傾げる。

「拭いて…欲しいの?」

素直にこくりと頷いた彼にわかった、と返事をする。

「屈め。…そお、屈んで」

ゴシゴシとタオルで筋肉の塊を拭いてやる少女。大人しく拭かれる逞しい肉体。


何だか厄介なものを受け入れてしまった、とそのアンバランスな組み合わせを見ながらサンタは思った。
乱れた髭を揺らしながら、もう一度綺麗に梳いて貰おう…とも思っていた。





宙に浮き胡座をかいて瞑想…しているサンタの足の上がの暇つぶしの定位置である。
本を読んだり、昼寝をしたり、髭を弄ったり、と大抵のパターンは決まっているのだが、

「…鍛えたくて仕方が無かったのか…」

「すごい…ああ…あんなに」

「…はあー…」

兎に角、口を開けばあのカイリキーの事ばかり、だ。
鍛錬用に使えそうな道具を調達して与えてやった所、それはそれは熱心に鍛えていて、またそれはそれは熱心にその様子を観察する、という図が出来ていた。

格闘タイプのポケモンを余り育成した事のないにとってそのカイリキーがもの珍しい事は十分理解できる。思わず普段は動かない口も動くだろう。

しかも

相手は更に珍しい色違いのポケモンで。
正直言って、分が悪い。

「……!?」

浮遊感が消え失せ、どしゃっと間抜けな落ちる音。
サンタに抱えられたが遅れてあう、と小さな悲鳴を上げた。
雑念は瞑想に影響を及ぼす。大事な主人を抱えながら彼は自分もまだまだ未熟であると深く反省した。










//////////
所謂嫉妬。