物事に夢中になる人間と言うのは珍しくないが彼女は特にそれが顕著だった。





彼女は作るという事が大好きだった。
作る事に夢中になりすぎて、完成した頃には何を作っていたか忘れていた事さえ珍しくない。

そんな訳で、彼女の机は何だか用途が良く分からない多分便利なものでいっぱいだった。

彼女の最後の発明品が使われたのはもう何時になるだろうか。





ざっくりと言うと人の頭の中には常に電気の信号が流れている。
だったらその脳神経と電子回路を直結する事はできないだろうか?

そんなふざけた事をマジでやってしまったのが、、彼女だというのだ。

「・・・じゃあそのマジでふざけた事をやっちゃったからそんな格好に?」

『ふざけたとは失礼な。確かにどうかしてるけど』

『確かにどうかしているぞ』

道を歩く少年網島ケイタ君の両手には花・・・いや、携帯電話。
一方はシルバーの心持分厚いケータイ。もう一方はシルバーの携帯と比べると少し旧型の携帯。
二つの携帯の画面にはそれぞれピクトグラムのような顔”が表示されていた。
ぱちぱちと瞬きのような動作をしながら、携帯が”少年に話しかける。

普通に考えたら明らかにおかしい状況だが、彼にとってはもう慣れたものだ。

『それより早く本部行こうよー。また充電が切れそう』

「わかったわかった。雨が降りそうだしちょっと急ぐか」

曇り空と少し湿気た空気に、だから傘を持ったほうが良かったとシルバーのケータイ、セブンは愚痴った。















『そういえばあの日もこんな天気だったなあ』

どこからか聞こえる遠雷に耳を傾けながら旧式携帯はのたまった。
その言葉に雑用をこなしていたケイタの手が止まる。

「あの日って?」

『ん?私が携帯になった日』

『あの日は、大変でございましたねえ』

ひょっこりと顔を出しつつ、話に首を突っ込んだのはサード。
手には所謂携帯クリーナー(しかもサードを模したプリントの付いた可愛らしいもの)を持ちながらとことこと近付いてくる。

『毎回拭いてもらっちゃってごめんね』

『いえいえ、お構いしません』

きゅっきゅと多少汚れたディスプレイを拭いてもらいながら、はケイタの問に答えた。



『実験で携帯になったとかって初めて会ったときに説明したじゃない?』



あー、と曖昧な返事を返しながらケイタはその時の事を思い出していた。
歩いて喋るケータイが存在する事だけでも驚きだったのに、

「この携帯の中身は人間です」

とか美作さんにわけの分からない事を言われてびっくりしたっけ。
冒頭のような実験の話のくだりは一応説明してもらったものの、仕組みが良く分からない所為か未だに半信半疑ではあるが。

『実験の結果でこうなった訳じゃなくて実験が失敗した”結果こうなった』

『大きな落雷がありまして・・・予想外の出来事でした』

本当に大変だったよねえ・・・としみじみ感慨深く語るケータイ二体。
ん?とケイタはある事に気付いた。

「それって人間の身体に戻れない事も踏まえて実験失敗”って事?」

『その通りだ、バディ』

メンテナンスが終わったのかセブンが三人の下へとやってきた。

『もうこの身体になってから随分経つよねえ』

様は何時になったら御自分の身体へ帰れるのでしょうか・・・』

『うむ・・・』

割と真面目に語らっているケータイ達を見ながら、マジだったのか、と改めて驚いた。
それと同時に湧き上がる好奇心。

「ねえさん」

『何?』

すっかり綺麗になったディスプレイを汚さないように自分のほうへ向ける。
セブンやサードとは違って普通の携帯なので自分で身体を動かす術が無いのだ。

「携帯になるってどんな感じ?」

『うーン?』

難しい質問だなーと、言ってディスプレイにクエスチョンマークを浮ばせる。
しばしの間考えた後、彼女は応えた。



『教えてあげない』










今日で俺の番は終わり、とカレンダーに描かれた花丸を見ながらケイタはそう言った。

何でも、携帯になったを本部におきっ放しには出来ない、(充電がすぐ切れるので)
とかそういう事でエージェント間で順番に一定期間家に持ち帰っているのだとか。

とまあそんな訳で、彼の番は今日で最後だった。

「次の人はー・・・と」

つつつ、と指でカレンダーの文字を拾う。

『次は桐原様の番ですね』

『ええー・・・』

ケイタの言葉を継ぐように言ったサード。そして少し不満げに返事をする
ディスプレイの顔も不満そうに変化する。
はは・・・と苦笑しながら期間中気になっていた事をケイタは質問した。

さんってその・・・普通の携帯でしょ?

どうしてフォンブレイバーみたいに表情が変わるの?」

『ああ、そういう事』

待ってました!と言わん限りのご機嫌そうな声色で彼女がまた嬉しそうな顔に変わった、その時

「何時までごたごた喋ってるつもりだ」

ひょいと彼女は持ち上げられ、ディスプレイを閉じられる。
何すんのよお!とくぐもった声が閉じられた携帯から聞こえた。
噂をすれば何とやら、桐原がやって来た訳で。

『桐原様、余り乱暴に扱っては・・・様の携帯はデリケートですから・・・』

「何がデリケートだ。コイツが話を始めると無駄に時間が潰れる。もう帰るぞ」

ちえ、けちんぼ。と小さく愚痴を言う声がこっそりと聞こえた。
サードもモバイルフォームに戻り、では帰りましょうか、な雰囲気だ。
一瞬平和に見えるその雰囲気を桐原の一言が見事にぶっ壊した。





「雨も降ってるしな」










『・・・でね、毎月ちょっとづつ給料から引いてもらってパーツを作ってるんだよ

今はまだディスプレイだけだけどそのうちセブンやサード達と一緒のボディを作ってもらって・・・』

「へ、へえ・・・すごいなー!(棒読み)」


結局その日は桐原さんに車で送ってもらいましたとさ。


「お前らもう少し静かにしろ!」

『良いじゃんもうちょっとお話したいー!!』










(一方は若干子供じみた口喧嘩をするバディ、
もう一方はその喧嘩を止めようと慌てて仲裁に入るバディを見ながら)


『・・・思ったのだが』

『はい?』

『誰かに傘を借りる、若しくは近くのコンビニでビニール傘を買って帰る

・・・と言う選択は無かったのだろうか』

様があんなにも楽しそうに話していらっしゃいますし、別に良いんじゃないんでしょうか』

『・・・それもそうだな』


**********
それで良いのか。
ケータイ達の台詞を『』これで囲もうと思ったんですが。
何だかしっくり来ないので。「」これで。
・・・と思ったんですがノベライズが『』だったのでコレで統一。ややこしい。