面識があったとしてもそこに信頼や信用は生まれるのか?





がちゃがちゃと機材をいじったり、時折キーを叩く彼女の横顔を見ながら、思う。

本当は良く分かっていた。

が自ら候補として手を挙げた理由。
それは他ならない自分の為なのだろう。

・・・それが酷く滑稽な事に感じられてしまう。

誰かの為、と思ってした行動があっさりと裏切られる事を彼は良く知っている。
機械と人間が本当に信頼しあう事など出来ないのだ、とさえ思ってしまう。
決して抱いてはいけない、その感情。なんと言う名前だろうか。



「・・・いよし、最終調整はあと少し、と」

パソコンの画面とにらめっこしていたが呟いた。
疲れた、と眉間の辺りを揉みながら背伸びをする。古臭いパイプ椅子がまた軋んだ。

『・・・』

「あーとーすこしーだなっと」

『・・・』

「・・・・・・」

至極残念そうな顔をしてこちらを見てくるにゼロワンは聞いた。

『説明したいのか?』

「そりゃしたいよ」

うずうずしてる。と言いながら彼女は無邪気に笑う。
どうやら、ゼロワンに自分が一体何をしているかを聞いて欲しかったらしい。

『・・・それでは、一体何をしているんだ?』

「うんうん、良くぞ聞いてくれました」

待ってましたと言わんばかりには喋りだす。


・・・が、とても技術者の端くれとは思えないほどの稚拙な文章での説明。
彼女曰く、「脳みそと機械を繋ぐ夢の実験」だとか。


『もう少し知的な説明は出来ないのか』

「難しい事は無しの方向でぇ」

ははは、と気楽に笑いながらはその機械に触った。
ゆっくりとその無骨なボディをなぞる。さっきとは全く違う穏やかな顔だった。

「このシステムがきちんと完成すればきっと人の役に立つ」

『具体的には?』

「自分の思考で機械を動かす事ができるシステムだからー・・・

ざっと考えて四肢欠損の人たちの手足代わりとか、

ロボットの馬力に人間の繊細さを兼ね備えた作業が出来るようになるかな、多分」

さらっと言い切った

『案外馬鹿ではないのか』

・・・とゼロワンは言った。それは彼の素直な感想ではあったが、

「ひどいなあ、何それ」

はむくれっ面をした訳で。

『危険性については考えてはいないのか?』

「それは試してっから考える」

試す?誰に? ゼロワンはそう問う。
まず志願する人間が思いつかなかったからだ。脳神経と電子回路を繋ぐ実験など失敗したら一体どうなる事か分かっているのかこいつは。

「そりゃやっぱり作った人物が試すのが筋じゃない?」

『・・・やっぱりお前は馬鹿だ』

しれっと言い切ったにゼロワンは少しうんざりした。



面識があったとしても、こんな奴と信頼しあうのはいやだ。










『ゼロワン、彼女との関係は上手くいっているの?』

『どうなの?』

『・・・・・・』

今一番聞かれたくない事をあっさりと聞くのはセカンド。
そのセカンドに続いて首を突っ込んだのはフォース。

様もこれで海外支部の仲間に面目が立つと喜んでおりましたよ』

余計な事を付け足してくれるのはサード。
皆、ゼロワンの妹、弟に当たる機体である。つまり、彼は長男になるわけだ
・・・が、そんなゼロワンを長兄扱いするものはこのフォンブレイバー達に居る訳でもなく。

しんとしたエライザ内で彼は八方塞になっていた。
ちなみにそれぞれのバディ達は招集をかけられ会議に出ている。

ゼロワンは少しだけあの腐海が恋しくなった。


『上手くも何もあったものではないだろう。あれは臨時の代理バディだ

任務をこなす事が出来ればそれで十分だ』

『あれ”とは余りにも失礼ではございませんか、ゼロワン』

『そうよー、の事そんな風に呼ぶなんて酷い』

『これからもずっと貴方のバディになるかもしれないのだから、もっと態度を改めなさい』

『・・・・・・』

余計な事を口走るんじゃなかった。袋叩きである。

『・・・これからもずっと、・・・か』

そんな事出来るものか、とゼロワンは吐き捨てるかのように言った。
ぴたりとそれまでの会話がやむ。妹弟達にとっても彼のその話題はタブーに等しかった。

『彼女が他の二人のように居なくなってしまう事を貴方は恐れているのね』

『私は恐れてなど居ない』

『そうかしら』

にわかに場の雰囲気が悪くなっていくのをサードは感じた。
いつもなら即座に仲裁に入る彼も、思わず戸惑う。
・・・というのも、




『おっ、居た居た。やれ帰ろうかゼロワン、やれ帰るぞゼロワン』

『・・・!?』

突如ぐにぐにとしたまるで蛇のようなそれが急に乱入してきたからである。
サードが感じ取っていた変なものの気配はまさにそれだった。
蛇腹状になった線の先にはレンズが光る。

『実験段階だったけど結構狭い所にも入り込めるなあこれ』

『・・・

ゼロワンの心底呆れた声。
それを聞いてけらけらとマイクから若干音割れした笑いが聞こえてくる。

『面白い顔してるよゼロワン』

『煩い』










「おかえりー」

『・・・・・・』

ゴーグル型モニタ、そこから伸びる配線出っ放しのあの蛇腹。手にはラジコンのコントローラー。
ぐにぐにぐにと蛇腹を動かすその酷く不恰好な機械をつけた

・・・自分のバディ。認めたくは無い。

こんなんだったら凍結の方がましだったのではないかと真剣に考えるゼロワンの横で、
フォースは無邪気にユニークな格好ね!と喜んでいた。暢気なものだ。

「どうどう?これ。まだ実験段階で遠くには入り込めないんだけど」

『まさかエライザの中に入ってくるとは思いもしませんでした、様』

「ひたすら小型化を目指したからね!」

にこにことやはり彼女は無邪気に笑う。ゴーグルの跡がうっすら目の周りについていた。
が外したその滑稽な機械を横目で見ながら、

「・・・お前も災難だな」

『・・・お互い様だ』

桐原が毒を吐き、それにゼロワンは珍しく同意した。





バディ同士で他愛も無い事を喋り、解散。
家に帰るのだから勿論ゼロワンもついて行かねばならない訳で。

「カバンとポケットどっちが良い?」

『・・・・・・は?』

いや、だからさ、と彼女は自分の作業着の胸ポケットとプチ腐海が広がっている大柄のカバンをそれぞれ交互に指差した。

どちらかに決めろと言う事らしい。

『・・・ポケット』

「よし来た」

随分なれた口調でリトラクトフォーム、と言う彼女にゼロワンは素直に従い、変形。
正直、舌でも噛むのかと思っていたので意外だった。

「美作さんに滝本さんと一緒にスペル練習したんだよ」

『滝本と・・・?』

そういえば滝本は自分のフォンブレイバーを所持していない。
セカンドはもう暫くしたら六号機と共に滝本のバディとなる七号機も出荷されると言っていた。
お世話焼きな美作がもうすぐバディを持つ滝本と、新米バディのを思ってやったのだろう。

・・・美作が言った事をリピートする二人、と言うのは中々シュールな光景ではあるが。

「噛まずに言えただろ?」

『ああ、まあな』

うふふ、と至極機嫌良さそうに彼女はモバイルフォームのゼロワンを、自分の作業着の胸ポケットに突っ込んだ。
丁寧に扱え、と少しくぐもった声で愚痴が聞こえた。





果たして、本当にこいつと一緒にやって行くことは出来るのか。










**********
一旦切る。災難なお兄ちゃん。