私は、










「あーっ!かえしてよう!!」

町外れの草むらの近くで、子供の泣き声がした。
小さな手で必死に背の届かない空間へ手をばたつかせる。
彼の背後では同じように手をばたつかせてやはり涙目の、子供が居た。

「駄目だ!お前達、自分が何をしてたか言ってみろ!」

「何って…ポケモンしょうぶだよう…」

「ほらみろ!勝負だなんて…無理矢理戦わせて!」

「ち…ちがうもん!!」

「違わないわ!こんな小さな時からポケモンをこき使って…勝負する道具のように!

やはりNさまの言う通りポケモンは解放しなきゃいけないわ!」

何いってるのかわかんない。そう言いながら子供達は寄り合ってぐしぐしと泣き始めた。
それを見ていた変な格好の男は咳払いをして、説き始める。

「子供達よ!…おほん、このポケモン達は、一体何処で捕まえたのかね?」

「…ここらへんの草むら」

「ここら辺の草むら、と言うからにはきっとこの子達の巣が近くにあったのだろう。

もしかしたら今の君たちみたいにお家から離れて遊んでいたのかもしれないね?」

「……」

「それを捕まえたと言うのなら!彼らの家族はなんて悲しむ事だろうか!?」

「ましてや!こんな小さなポケモン同士で戦いと言う遊びもさせられてる!悲しいわね」

それを聞いていた子供達はもごもごと黙ってしまった。
ややあって、彼らの一人がそっと口を開く。

「でも、ヨーテリーはぼくとなかよくしてくれたもん…」

「逃げられないと分かってるからだ!本当はずっとずっと外の大きな世界で過ごしたいに決まってる!

ポケモンは人間なんかに縛られてはいけないのだ」

「…そう、それじゃあその 腰のもの…は?」

がさり、と草むらが揺れて誰かが現れた。
土と葉っぱで少し薄汚れていたが、“彼女”の目はしっかりとその妙な格好の男女二人を見据えていた。

「なんだお前」

「…只の“テレポートすがり”」

「はあ?何言ってる訳?」

「…質問に答えろ」

すっと、黒い手袋の手で、彼女は彼らの腰のもの、…モンスターボールを指した。

「これは我らに協力してくれるポケモン達だ!」

「我々は正義の為にポケモンを使ってるの!あんたらとは違うのよ!!」

「話にならない」

子供達の前に立ち、彼女は後ろ手で彼らに下がっているように指示をする。
その間も、目線だけは外さず、じっと奴らを見たままで。

「…ぼ、ぼくのヨーテリーをとりかえしてくれるの?」

「…ん」

どっちなんだよ、と一瞬彼らは思ったが、そんな思考も騒ぎだす変な男の声によってかき消された。


「あっ それじゃあ、お前のその腰のものは何なんだ!?

それは鞭だろーが!!!」

「あっ…ほんとじゃない、何よ。あんたも野蛮なトレーナーって訳ね!」

「その鞭で!ポケモンを無理やり従わせているのだろう!?」

「あんたのポケモンも解放させてやる!」

彼らがしゃべり終えるまで、沈黙を守っていた彼女、ちょうちょのようなリボンがゆらりと揺れた。…重い口を開き、

「…この鞭で、ポケモンを打った事なんてない

…人間も、」


「“なかった”」


パァン!とたわませた鞭を両手で鳴らす。
びく、と男女二人は少し肩を揺らした。

「貴様等相手に大事なポケモンは戦わせられない」

「…貴様等もポケモンを解放させるだの…言うなら」


「身を挺して戦えば良い」










「歯を食いしばれェ!」

美しくもあるハイキックが男の顎に叩き込まれた
小柄な少女の一体どこにそんな力があったのか。
そばにしゃがみ込む女は腰が抜けたのかあわあわぱくぱくと口を動かすばかりで。

「サンタさん…あの子達をポケモンセンターへ」

どしゃ、と男の身体がやや跳んだ後に地へ落ちる。

“サンタさん”と呼ばれたポケモン…フーディンは
頷くように髭を震わせた後、子供達とポケモンを抱き寄せて消えた。


「テレポートか あのトモダチはキミを信頼しているように見える」

「革製の鞭…二メートル近い 達人の鞭は音速を超えると言うが…キミでは無理そうだ」

「……」

「…トモダチ?…そうなのかな?…彼はボクには教えてくれなかったな…」

「Nさまぁ!」

ひんひんと泣く成人二人は口々に「えぬ」と言う名を呼んだ。
いつの間にやら、彼らの足は短い紐でお互い繋がれていて、立ち上がろうとした瞬間、足がもつれてまた地面と激突する。

そしてその青年は、何時やって来たのか、彼女の後ろで手を組み立っていた。
ずっと、この場に居たかのような振る舞いに、ちょうちょリボンが、少しだけ揺れた。

「…」

「…」

二人を縛り上げていた彼女は足蹴にしていた男女に向けていた視線を「えぬ」とやらに向け、


「私は貴様の事が嫌い」

「!」

…と、開口一番、そう言った。
あっけに取られた男女は地面を這いながらわあわあと騒ぎ立てる。

「ちょ…お前Nさまになんて口を!」

「もっと敬意をもてよ!Nさまは我々プラズマ団の王さまぞ!?」

「…知らない 私の知ってる偉い人はコーダイだけ」

「だれだよそれェ!」

ぎゃんぎゃんとうるさいな。
小さく彼女は言い、鞭を地面に叩き付けた。
パアン!と小気味良くも実に痛そうな音がして、“プラズマ団”の男女は黙り込んだ。

「嫌い、か。ボクもそうかと思っていたよ」

「…?」

「キミのポケモンは何故あんなにもキミを信用している?

鞭を振るい、冷たい態度。言葉も少なく意思疎通が出来ているようには思えない」

「トモダチとも思っていなかった。寧ろそれ以上の…」


「キミは、何?」

「何言ってるんだ貴様は」

瞬きもせずに、彼女はNを睨みつけた。

「喧嘩を…売ってるなら、買ってやるから かかってこい」

「そうかい」

彼は微笑み、言葉を続ける。

「ボクはキミがもうポケモンを所持していないのを知っているんだけども」

「だから、」



が、っと視界が反転。
頭に鈍痛、にわかに視界が明るくなり、帽子が飛んで行って、自分が空を向いているのだと彼は認識した。

「…だから、どーした…!!」

「乱暴だ」

えぬさま!と団員達は小さく叫んだ。
ちょうちょリボンの彼女は馬乗りになり、Nとやらの胸ぐらを掴む。

「貴様を見てると…むかむかす…る」

「そう、ボクは少し苦しい」

ぐ、と彼は腰のボールに手をかけた。

「結局…ポケモンを使うじゃない」

「今の場合は正当防衛だ」

その言葉を聞いて彼女は彼の上から立ち上がった。
目線を外さないまま、一歩、二歩と後ずさりし、構えた。

「…律儀だな。素手でやるつもりなのか?」

「…悪い?」

もっと表情を険しくして彼女が言った途端、

ぐわりと、風が吹いた。

「!」

「サンタ!!待て!勝負はこれから…!」

突如現れたフーディンこと“サンタ”は主人を抱えて戦闘離脱の体制を取る。
ちらりと、Nに視線をやる。

「くっそ…!!覚えてろよォ!!」

捨て台詞を吐きながら少女は戦線離脱。
ぶわりと再び強い風が吹いた。


「…いや、それってあたしたちが言う台詞じゃない?」

「そうだけど…負けたとは言いたく無いから言わんぞ俺は…」

テレポートによる強風が凪いだ頃、プラズマ団の男女はそんな風に呟いた。

「…敵わないタイプだと察したのか」

次はリベンジ、とか喋り合う彼らを横目にNはそう呟いた。
ボールの中のポケモンにちらりと視線を向けた後、


「もう少し、話してみたかったかも…知れない」


そう言って地面に転がった帽子を拾う。
その顔は心無しか笑っているようにも、見えた。










行き先が分からないままのテレポートは、ちょっとした危険を伴う。
彼女らの場合も、まさしくそれで。

彼女こと、とサンタさんがヤグルマの森に落ちる、少し前の出来事。










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とりあえずNさんが気に入らないらしい夢主さんが書きたかっただけ。
あとアーティさんと出会う前の少し前の出来事的な。