いつでも大歓迎です。
図体のでかい奴、求む。





「じゃあん!見て見てー」

「うわっ、なんですかそれ!」

ぺちん、と何処か間抜けな音を出しながらアーティはそれを床に叩き付けた。

「鞭…ので?」

「うん。貸して貰ったんだ」

彼女…とはヒウンジムに居座ってしまった居候であり、自称猛獣使いだ。
自称、の文字が表すように彼女には猛獣使いとしては多少物足りない感じで。
の唯一の手持ちもエスパータイプのフーディンであるし、見た目も小さな女の子そのもので、とてもじゃないが猛獣使いとして認知するには難しい風貌だ。

ともかくアーティが持っていたのは、その彼女の持ち物の鞭であって。

「振り回すとなると結構力がいるね!」

「ちょ、危ない!!」

見慣れないものに好奇心がくすぐられるのか、ぶんぶん振り回してみたりと自由奔放なアーティに、

「ねえ、」

噂の人、が話しかけた。
相変わらず自分の事は滅多に話さないものの、ジムに居着いてから時間も経ち、なんとなくではあるがジムリーダーであるアーティや、トレーナーのクラウン達にも慣れて来た気がする。

「…オイ」

…気がする。口が悪いのは仕方が無いのかも知れないな。

そんな事をしみじみ道化師ジャックが考えていると、

ばぢん!!!

「…っつう!!!」

「あ」

ものの見事に、鞭は命中した訳で。





「もし私が打った鞭だったら、ぐちゃぐちゃ」

「うんもうマジでやめて」

無惨に潰れた赤っ鼻をぴぷぴぷと鳴らしながら形を直す。

「あうう…ごめんね 慣れない事はやっちゃ駄目だね」

「いや、良いんですよアーティさん…」

この痛みがアーティさんの作品に繋がってくれるなら少しは救われるんですけど、なんて思いながらジャックは話題を変えた。

「そういえば、どっか行くんですか」

「うん?猛獣探しに」

「は?」

さん、イッシュに来たのは初めてだ、って言ってたじゃない?」

「はあ」

「だからボクが一緒に付いて行ってあげようと思って」

「…はあ」

「だから行ってくるね、留守よろしくね。はい、行ってきますは?」

「…行ってくる」

「え あ、はあ…」

言うが早いかさっさと行ってしまった二人と、残される道化師。
ジムを留守にする事とか猛獣を探すとか突っ込みたい事は沢山あったがそんな事より、


「むっ、虫取り網だけじゃ装備が軽すぎるんじゃないですかー!!!?」


一体何を捕まえるつもりだったのか、










と言うと勿論この人の頭にはあれしか無い訳で。

「あっ、さんみてごらん。クルマユが二匹寄り添ってるよー」

「…猛獣じゃない」

自分が倒れていた事を思い出したのかなんなのか、苦虫を潰したような顔をしながらはぶっきらぼうに呟いた。

「えー、猛獣なんかより きみ むしポケモン つかいなよ」

「…………」

かっこいいよ、と言いながら実に楽しそうに笑うアーティに毒気を抜かれたのか。
鼻でため息を吐きながらぶらぶらとヤグルマの森の探索を独自に始めたのだった。





「…」

ぽむ、とボールからフーディンを出し、前を見据える。
じろりと、二匹のポケモンがこちらを見ていた。

「あっちは、それっぽいかも」

そう言ってが目線を向けたのは中型の鳥ポケモン、ハトーボーだ。
目線鋭くサンタさん(※フーディンのニックネームである)に威嚇する姿は中々様になっている。
もしかしたら、ピジョンやムクバードのようにもう一段階進化してかなりの猛獣に…!

「あっ、居た!」

そんな猛獣…猛鳥妄想も間延びした声に遮られる。
言わずもがな、アーティだ。

「…取り込み中」

「うん、見てれば分かるんだけどさ」

きみ、ポケモン一匹しか持って無いじゃない。
と、半ば忘れかけていた事を言われ、は硬直した。

「…確かにまあ、一匹 しか」

「一匹だね。でも相手は二匹」

彼がすっと指差す先は確かに二匹、である。
ひっくり返ったフシデを足で押さえつけるハトーボー。
もしかしなくても食事の場面を邪魔している訳で。

「捕まえるんでしょ? フシデ」

「そっちじゃない!」

あっち!と言いながらはハトーボーを息荒く指差す。
なんだ、そっちか。と素なのかわざとやっているのか、露骨にアーティは残念がった。

「どっちにしろ捕まえるなら手伝いが必要だよね?」

「…不本意だけど」

手伝ってくれるなら、とはやはりぶっきらぼうに言った。

「それじゃあ、いこうか!イシズマイ!」

「サンタさん、戦闘開始!」

気合いが入ってる割にはどうだろう、そのかけ声。
そんな事を思いつつも、彼らのタッグバトルは始まったーー










が、

「…どうして…」

こうなったんだろうか。と小さく絶望に満ちた一言をは呟いた。
目の前には頭にフシデを乗せてご満悦なジムリーダー、すぐ脇には自らを心配してくれる相棒。

何がどうしてこうなったかと言われれば、

ハトーボー、獲物を逃したく無いからかフシデを足で抑えたままの戦闘。
サンタさんとアーティのイシズマイがほぼ身動きが取れないハトーボーを追いつめる。
ハトーボー、流石に相手が悪いと思ったのか戦闘離脱、だがフシデは足から離さず。
飛び立ったハトーボーをイシズマイがうちおとすで攻撃。

そこまでは中々悪くは無かった。タッグというのも案外良いななんては思ったりした。
イシズマイのうちおとすであのハトーボーとやらを手に入れられるとわくわくしたりした。

が、イシズマイが撃ち落としたのはそう、正にフシデだけであって。
ぼて、と落とされたフシデはどういう偶然なのか、アーティの癖っ毛頭に落下、

その結果が、

「助けてくれてありがとうとか言ってるのかな! 礼儀正しいね!」

とはしゃぐジムリーダー。そして多分そんな事は言ってなさそうな髪を齧るフシデ
…であって。

「いいじゃない、やっぱりきみ むしポケモン育てなよ!」

「……」

「この子も育ちきれば大きなカッコいい虫になるのに…」

がっくりしたようすでそっぽを向いていたはその言葉に少しだけ肩を揺らした。

「…どれぐらい?」

「もの凄いかっこいいよ、虫は」

「…そうじゃなくて」

お、大きさは?と少し期待を隠しきれない様子では問いただした。

「かなり大きいかな、君のフーディンよりも」

びく、と今度は確実に反応を見せる彼女。

「…あー、もしかして大きいポケモンが好きなの?」

「…ちがっ…違うもん」

別にそう言う訳じゃない。と言いながらアーティの髪の毛に毟り付いていたフシデをひっぺがしじろじろと観察する。

「…本当に、大きく?」

「なるよ カッコいいよ」

「…お腹ぷにぷになんだけど」

「猛獣みたいなポケモンだってぷにぷにの部分はあるだろう?肉球とか」

「…嘘付いてない?」

「つかないよ」

へら、と笑うアーティを横目に見つつ、がじがじ手袋に齧り付くフシデをゲットするべくはモンスターボールを取り出した。

「また一人むしポケモンの魅力に取り付かれたトレーナーが…うん、楽しみ楽しみ」

取り付かれた、と言うより無理矢理勧誘した、に近い気がするが。
そんな相棒サンタさんの考えも、わくわくと瞳を輝かせ、実に楽しそうな愛する主人にはとてもじゃないが入れられる事も出来ず。

ハトーボーの散らした哀れな羽と共に、思念は何処かへ飛んで行く。
そんな、出会いの一日。










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大きいポケモンに魅力を感じる主人公さん。
アーティさんをまともなお兄さん口調にしていいものかゆるキャラでも良いのかもの凄く悩みます。
多少天然分多め。
フシデのお腹がぷにぷにっつーのは私の完璧なる妄想です。俺得。