死にものぐるいで、荷物運搬。
死にものぐるいで、渡ってきました。





「ってヤグルマの森からおぶって来たんですか?橋を渡ってェ?その子を?」

「そりゃあもう頑張って…」

「頑張って、ってシッポウジムのアロエさんの所に連れて行けば近いし楽じゃないですか…」

「…あ」

「…アーティさん…」

「それにしてもこの子、どうしたんですかね」

赤い鼻をぴこりと光らせてジムトレーナーのクラウン達はむむ、悩んだ。
テンポ一つ遅れつつ、アーティと呼ばれた彼も首をひねる。

「何かあったのか、どうなのか…」

「何も無かったらそんな所で倒れてないと思います が…」

はは…と苦笑いをしながらクラウンの一人…名前はリックとと言う彼がそう発言する。
薄汚れた顔を拭いてやる彼の顔は若干青ざめていた。

「死んでる訳じゃないだろ」

「死んでなきゃいーのか!?そう言う問題じゃないだろ!」

「ちょっと待った!

…とりあえず、まず何があってこの子を連れて来たのかアーティさん教えて下さいよ

いきなりこれじゃ訳が分かりませんって…」

前者からとりあえず、ヨウスケ、ケリー、ジャックの順番で発言。
彼らは見た目同じような派手なクラウンの服を着ているので非常に判別が付きにくい。

兎にも角にも、

「何があったって…ボクは何時もの気分転換にねえさんの所へ行ったよね?」

「はい」

「で、橋を渡って、森も通るよね?」

「はあ」

「で、ここらじゃなかなか見ないポケモンを見つけたんだよ。

髭が長くて、立派で…多分エスパータイプ。んうん、後…」

「後?」

「またかい?」

不意にモンスターボールを取り出したアーティに四人はその視線の方を向く。

「あ、」

「…た、確かに」

「…髭だ」

立派な、多少ぼろぼろの髭のそいつがそこに佇んでいて。
音も無く侵入して来た所を見ると、おそらくテレポートを使って、と考えられる。
確かに、エスパータイプだろう。

「…いや何であのポケモンは此処にやってきたんですか?」

「どうしてだろうね、あの子があの髭ポケモンのトレーナーなのかね?」

「わからないんですか」

「あうう、そりゃあ分かんないよ。ボク髭ポケモンを伸しただけだし」

「伸した、ってもしかして怒ってるんじゃあのポケモン…」

「そんじゃあもう一回伸しちゃおうか」

ジム内の皆が結構酷いなこの人、と思い、
アーティがハハコモリを選びボールを投げつけようとし、
相手の髭も正にリベンジとばかりに二本のスプーンを構えたその瞬間、


「“待て”」


と彼らの間で寝かされていた“彼女”がむくりと、

起き上がった。










「お世話になりました、それじゃ」

「いやいや、それじゃあってまだ何も聞いてないけど」

ふらふらと立ち上がる“彼女”の腕をアーティは掴んだ。
びく、と彼女のポケモンであろう髭が眉間に皺を寄せ彼を睨みつける。

「いや、はにゃすこととかないんれ…」

もにゃもにゃと呂律の回らない喋り方をしながら彼女はしゃがみ込み、腕を掴む彼はいきなり倒れ込んだりして怪我をさせないようにと彼女を支え込む。

「しびれごなを受けてるみたいだし、このジムでゆっくり休んで行った方が良いよ。

…何があったのか、とか聞かないし君の事もジムの人間の他は誰にも言わないから」

「!」

「とりあえず、今は。だけどさ。

毛布とか着替えとか持って来てあげてくれる?」

「あ、はい」

ぱたぱたと慌ただしく動き出す道化師達、それから優しくではあるが腕をきっちり掴む彼を何処か遠い目で見ながら、



「食えない人間」



と彼女は零した。










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後一話位で最初に読んでおいた方が良いよーな話所謂導入部終えたいんですが。
トレーナーさん達の名前と口調は一応バトル後のセリフで確認したんですが、
まあ、あの二次創作なので余り気にしないで頂けると嬉しいとか、まあ、ええ。
…ま…また名前変換が無い…