ぢんるいはめつぼーしました





人がすっかり居なくなった都市は思いの他早く荒廃していった。
ビルの隙間から緑が生え、廃屋は不思議な事にいつの間にかぼろぼろになっている。

『時の流れは早いものだね』

「そうですねえ」

いつものように話しかければ、彼女の声が聞こえてくる。
・・・ただ、少し、

『・・・』

「どうか・・・しましたか?」

振り向いた僕はぎくりとした。しわしわで、くちゃくちゃの、・・・おばあちゃんだ。
彼女であった面影は全く残っていなく、あろう事か僕の見ている前でどんどんとその顔の皺が深くなって、ばさばさと白い髪が頭皮ごと抜け、もごもごとしていた口元からはだらりと歯が落ちていき、背骨のぼきぽきと曲がる音がいやに耳に残って、ずるりと覆面を引き剥がしたかのように顔の皮膚が










『・・・っは・・・はあ、』

「どっ・・・どーしました?」

覆面の上からともだちは頭を抑えた。その上からでも分かるくらいぐっしょりと汗をかいている。
革張りのソファは何だかべとべとしている。異様に暑い。
首元も、カッターも皆じっとりと湿っていた。気持ちが悪かった。

『・・・何でもないよ』

「そうですか?・・・なんか魘されてましたけど・・・」

講演までまだ時間あるから寝てた方が良いんじゃないですか?
と、は眉根を寄せて心配そうに微笑んだ。その手から毛布が垂れている。
かけてくれるつもりだったのだろうか。


『・・・ねえ、。僕の話を聞いてくれるかい』

「はい?何?ともだちさん」

『・・・怖い夢を見たんだ』

「・・・夢、はい。どんな?」

『・・・』

『・・・人類が滅亡しちゃう怖い夢』


僕は初めて友達に嘘をついた。





『・・・怖い夢だろう?』

「でもいつかは地球だって爆発かなんかして滅びるって何かの科学雑誌で読みましたよ」

『怖くないの?』

「だって約50億年後ですよ。私なんてとっくに居なくなってますって」

『・・・・・・・・・』

本当はそんな事が怖かったのではないと言いたかった。
今まで、昔の事を夢見るのが殆どだった。ビデオだったらきっと擦り切れてしまう程見ただろう。
でも、初めて見たんだよ。未来の悪夢を。

でも、君に言うのは何か怖かった。


「ともだちさんが言ってるみたいにどうしようもない理由で人類が滅びる事についてはー・・・

・・・当たり前だけど凄く怖いですよ。私だったら泣いちゃうかな。

・・・でも誰か一緒に居てくれたら少しだけ怖くなくなりますよ」

『誰か?』

「誰か。家族とか・・・」

『家族とか?』



「ともだち」



彼女は真っ直ぐに僕を見つめてそう言った。
きっとそういう意味で言ったのでは無い。それは分かっていた。なのに胸が押しつぶされそうだった。
ぎゅ、と何時ぞやの様に僕の手を握り、また口を開く。

「こうやって皆で手を握って輪になってたら、地球が滅びるその瞬間でも怖くないですよ」

「もし本当に人類が滅亡しちゃうんだったら私と一緒に手を繋いでもらえませんか?」

「一人で消えるのは寂しいので」

『・・・いいよ』





さっきまでの悪夢を思い出しながら、僕は彼女の手を握っていた。
たとえ遊び終わって、何もかもが終わってしまったとしてもこうやって彼女と手を繋ごう。

そうすれば、何が起こってももう寂しくない。

もう、一人ぼっちにはならない。





「そういやもうすぐ講演始まりますよ」

『このままステージに出ようよ。僕達ともだちなんだし』

「えー」

『えーじゃない』










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詳しく書けなかったのでとりあえず。
悪夢の内容は人類が滅亡して暫く経った世界、的な。
回りも何もかもがどんどん退廃していくのに自分だけ何の時も過ぎずに取り残されていく感じの。
・・・そんな内容だったと思ってください。

少年時代に囚われて、未来に取り残される哀れな男の話。