「一佐、お茶をお持ちいたしました」



嗚呼、その笑顔が輝いて見える!!!




   





さっさとボクにもよこせ、狗

「ぎゃっ」

じゃらん!と小さな金属音がして君の首が絞まった。

「や、止めてくださいよ、三佐・・・」

本当だ、なんて事をするのだこの外道は!
全くけしからん・・・。

偉そうに(しかも机に足を乗せて)座っている極卒を
むむむ、と険しい顔をして睨む・・・いや、睨もうと頑張っているこの男。

名は東郷といった。この賽の河基地のトップ、ドン、お頭、リーダーな一佐である。

正しくは・・・だった、一佐である。
彼の人生はこの目の前に、げたげた悪魔のような(東郷にはそう聞こえる)笑いを上げる
ごくそつ兄弟のお陰でめたくたになったのだ。

だがしかし今はそんな彼の悲哀に満ちた人生を語る時ではないので割愛させて頂く。


「ねー、さっさと会議終わらせましょ、ましょ?」

ばりばりとせんべいを頬張りながら酷卒が言った。

、・・・そうだな」

酷卒に話しかけられ一瞬心臓がどきりとする。
いや、落ち着くのだ東郷。こんな奴等恐るるに足りんのだ。

と自分を激励しながら、彼は顔の汗を拭いた。
そして改めて議題が書かれた黒板をきりり、と気を引き締め、見る。


議題 今月の特別メニュウについて”


「(早く此処から帰りたい・・・・・・!!!)」

なんでこんな議題なのだ、と頭を抱える。誰だこんなの提案した奴。
だがしかし、議題に挙がっているからにはきちんと考えねばならない。
それに腹が減っては戦が出来ぬというではないか!

あの・・・

ぐぐぐ、と机に拳を押し付け激しく自問自答する東郷にが話しかけた。

「・・・はっ! な、なんだね

それに気づいた東郷はの方を希望に満ちた目で向いた。

「(・・・苦労されているのね・・・え、えと・・・肉じゃが、なんて

どうでしょうか・・・?」

うひゃー!!いいねー!!!

だらだらと涎を垂らしながら(見っとも無い)酷卒ががたんと机に乗り上げる。

「ふむ、栄養面でも申し訳ない料理だな」

「はい、海軍の方でも肉じゃががメニューにあると聞きまして・・・」

「で、どうおもうんですう?一佐殿

嫌味ったらしい口調で極卒が東郷に話しかける。
思わず動揺して言葉が詰まる。どうした東郷。頑張れ東郷

「・・・っそ、そうだな。確かに特別メニューとしては申し分ないな」

「だ、そうだ。狗、作って来い

「「え?」」

ぱちくりと目を見開いて極卒を見る、東郷と

「お前が言い出したんだ。試食品を作るのはお前だ

「し、試食するんですか?」

「そおだとも〜。ねえ東郷殿もそう思いますよねえ?

ひっ

んろり、と余裕に満ちた目で極卒が東郷の方を向いた。
びく、とはねて、じんわりじんわり脂汗が出てくる。
耳栓の詰まった耳元に、いつの間にか演説の幻聴まで聞こえてきて。

まさに蛇に睨まれた蛙の様な状況である。

ちら、と東郷がの方を向いた。
頑張って、下さい・・・!”と言わんばかりの輝く視線(東郷ビジョン)で彼女は東郷を見ていた。

「ほ、・・・他の、(食事当番の兵士に)」

極卒の眼光が鋭くなって東郷に突き刺さる。
ぱくぱくと死に掛けの魚のように東郷が口を動かし、小さく呟いた。

・・・・・・君、タノンデモイイカネ?」(棒読み)

壊れかけのロボットのような不自然な声を出して東郷はのたまった。
薄っすらとその目元には男泣きとも言うべきか、涙が浮んでいて、
まさしく、玉砕といった状態であった。

「(心中お察しします、一佐・・・!後は私に任せてくださいっ・・・!!)」

小さく敬礼をしてが「畏まりました」と返事を返した。


神は我を見捨てたもうた・・・


がくり、と机に突っ伏す東郷を見ながら酷卒が笑った。

「あはあ、一佐お疲れですか〜?おせんべ食べる?」

差し出されたせんべいの香ばしい匂いが妙に鼻に付いた。










「や・・・止め給え・・・獄卒二佐

「ええ〜?でも美味しいんですってばあ」

東郷は今窮地に立たされていた。何でこんな事になったのかは良く分からない。
目の前には机に乗り上がり、東郷の口にせんべいを突っ込もうとする酷卒。

それを唯一止める常識のある人物(答:)は、今居ない。
そう、肉じゃがを作りに行ってしまったのだ、我が救世主は!

もちろん極卒はそんな酷卒を止めるわけがなく、のんびりとその様子を鑑賞している(殴りたい

「いや・・・せんべいは、結構だ、ダカライラナイ

「あは、何で外人訛りかな?かな?まあそんな遠慮せずにぐぐっと一口〜

酒じゃねえんだから、ぐぐっといけるかよ。
訳の分からないツッコミを(勿論口に出していえるわけが無い)していると

「あっ、スキあり!喰らっちゃえ!!

もぶがっ!!?

開いた口の隙間からせんべいを突っ込まれる。
嗚呼、しょうゆ味のとても懐かしい味・・・なんていってる暇か!
口の横幅にぴったりはまってしまったせんべいがそのまま喉に特攻しそうだ。

「ね〜?美味しいでしょう一佐〜」

きゃっきゃと楽しそうに笑う酷卒を見ながらもがもがと苦しそうにもがく東郷。
まずい、のどに詰まった、息が、息が・・・・!

い・・・き・・・



ガタンと椅子ごと倒れ、暗転






























・・・さ・・・一佐・・・

何処か遠くで東郷を呼ぶ声がした。
柔らかく、何処か懐かしい声、どこかで聞いた覚えがする。

、と目を覚ますとそこは花畑であった。
ふわふわと綿毛が飛び、秋桜や蓮華が咲き乱れ温かく、心地よい。

「こ・・・ここは・・・」

「・・・・・・。」

遠くでまた呼ぶ声がする。
ぼんやりと綿毛の向こうに見えるあの影は、

・・・おふくろ・・・?

立ち上がりその影に向かおうとする、と

「今行くよ〜・・・おふくろ〜」

ああん、逝っちゃ駄目だよ〜

ひ、と身体が強張って硬直する。聞き覚えのある悪魔の声(東郷にはそう聞こえる
わわ、と足元の花が枯れ、下から水が湧いてくる。

み、みみみ水ッ!?

みみずのようだ(関係ない
ごぼごぼと湧いてくる水に呑まれて・・・呑まれて・・・



ぎゃあー!!みみみみずー!!

「あ、目覚ましたー

がばりと起き上がるとそこは元いた部屋であった。
ソファに寝かせられていたようで、何でかびっしょりである。

「ほらあ、こうやった方が早く目を覚ますって言ったでしょ〜?」

「だ、だからっていきなりホースで水かけますか!?

っていうか何処から引っ張ってきたんですかそのホース・・・!!」

獄卒が持っていたホースの元栓を締めに君は走っていった。
ずずい、と目の前に名前がいえない奴の顔がアップになる。

ひ、

「いやあ、大変でしたねえ一佐殿。が呼びかけても起きないものでしたのでえ」

にまにまと笑いながら極卒がタオルを差し出す。誰の所為だ半分原因

「や・・・どうも、すまない(あの声は君だったのか・・・)」

「いいえ〜別にい、お気になさらず」

がしがしと頭を拭いているとなんともいえない美味しそうな匂いがした。

「あの・・・一佐。肉じゃが、出来ましたので良かったらお食べになってください

冷えた身体も温まると思うので・・・」

嗚呼、後光さえ射して見えるよ、君!

感動の涙を流しつつその皿を受け取ろうとすると、

あ、手が滑った

べし、との手を極卒の滑った手”が叩いた。
皿は綺麗な曲線を描きながら

べちゃ

と東郷の顔面に中身をブチ撒け床に落ちた。

からんからんからん・・・

部屋は異常な沈黙である。
酷卒は口を押さえ震えているし(笑いを堪えている
顔面蒼白硬直状態だし
極卒はやっぱりいつものにまにま笑みだし
・・・東郷の顔面からは肉じゃががだらだらと土砂崩れのように落ちているし

「い、一佐!・・・だ、大丈夫ですかっ

嗚呼!何と言う事をしてしまったのかねボクの狗よ!!」

大げさな身振り手振りで極卒が言う。

誰の所為ですかっ、どう考えてもわざとじゃないです・・・ぎゃっ!

じゃらん、と鎖を引っ張り極卒がを肩に担いだ。

「一佐殿、ボクはこのダメ狗”の躾をしてまいりますので・・・

よお〜く言い聞かせますから!ええもう早急に

ふえっ!?

「よし、じゃあ部屋に帰るぞ。獄卒、鍋は持ったか?」

アイアイサー!持ってるよ〜。あはあ、一佐殿まったねー!」

ぱたん。ドアの閉まる音がする。
なんとまあ手際の良い連係プレーなのであろうか。

「・・・・・・ハハ・・・ハハハハ・・・はあ・・・・・・

軽く虚しい笑いをあげたあと、深く息を吐く。
自分の顔に付いた肉じゃがを指ですくって食べてみる。

じわ・・・と広がる、おふくろの味

ああ・・・美味しいなあ・・・

肉じゃがの匂い広がる部屋に、その言葉は小さく響いた。

嗚呼、虚しい。










・・・後日、東郷がひっそり部屋を抜けてきた
お詫びの肉じゃがを作ってもらったというのは・・・また別の話。

「・・・お互い、苦労しますね・・・」

うむ、頑張って、行こうな・・・!!

妙な結束が生まれたというのも、また別の話。










******後書き
なんなんでしょう。コレ。
な、なんか長すぎませんかコレ・・・。
そして初めて出てきた一佐殿、の名前。
東郷さんです。元ネタは歴史にも出てくるあの人。