「よくよく考えてみれば、」

緑茶を啜りながらヴィルヘルムが口を開いた。危ない





   





乳臭い口喧嘩は一旦打ち切られた。と言うのもぎゃあぎゃあ言っていたら双方の咽喉が痛くなったためである。馬鹿臭い。

「良く貴様等のような半人前共がこっち側に来れたものだな」

「えー・・・あー・・・まあ・・・ねえ黒君

「・・・・・・ああ」

ごにょごにょと言葉を濁す二人。疑問符ばかりの基地組三人。
どういう事ですか?とが聞いた。

「私達の世界からこちら側の世界にやって来るには相当な力が必要なのだ。

この私でさえ四ヶ月も力を貯めて穴を開けていたぐらいだからな」

「一旦開いた穴なら入り込むのは簡単だが・・・それでも相当な力が要る」

ちら、と軽く緑頭と黒髪を睨む。どきっと二人が少し飛び上がる。腐っても上司





「んー、その事については」


「俺が話そっかな?」










もぐもぐと煎餅を頬張るグラサン帽子。
まーた何か変なのが来た、ともの凄く嫌そうな顔をした極卒。
もう騒動に飽きたのかうつらうつら舟を漕いでいる酷卒。
何が起きてももう可笑しくないんだな、と半分諦めている
あーあ、来ちゃった。とこちらも諦め様子の緑黒組。
眉間の皺が一掃深くなる赤頭。
室内に居る面々の様子を軽く表してみるとこんな感じである。七名。暑苦しい

「とりあえず聞いてみるが誰だ貴様は。簡潔に頼む」

「おお、いきなり押しかけて御免な。俺は神さ」

「かみ、・・・ですか?」

うん、と無邪気に笑いながらばりばりと豪快に煎餅を割る。
眉間の皺を少し解しながらヴィルヘルムが口を開いた。

「・・・・・・こんなのでもこちらの世界の神だ。・・・で、何しに来た」

「そりゃあお前を連れ戻しに決まってるだろーが。半人前の二人は俺が連れてきたって訳。

しっかしまあこんな穴ブチ開けちまって・・・俺は元に戻さないからな」

で、こんなのでもって酷いなお前、と少し遅れたツッコミ。

「神まで私を連れ戻しに来るとは・・・」

「一人でも欠ければ世界の均衡は破られるんだぜ?とか言ってみる」

へらへらと笑いながら神様はそう言った。
何気に空中に胡坐をさも普通のようにかいているあたり本当に神様なのだろう。

「ああ、そうだとももっと俺を敬っていいぞ

「・・・あのう、人の考え読まないで下さい・・・」

「しかしこの世界の神はやたらとシャイだな。全く姿が見えない」

「神なんぞ居るものか」

机に肘を付き実に暇そうにしていた極卒が神の言葉を一蹴する。

俺は居るぞ?

「そっちの世界はそうでも、こっちの世界と一緒とは限らんだろう。

さっさと話を終えてこの場から全員出て行ってくれ」

びし、と中指で乱入組を指す極卒。

「あー、そうだな。MZD。さっさとバ閣下を連れてってくれよ」

「だから黒君バ閣下はやめようって・・・」

もう一旦おじ様も帰りましょうよーととりあえず優しく話しかけてみる緑の人。
嫌だ、と阿呆らしいぐらいの反応速度で返事は返ってくる。

「此処で私はと一緒になるのだっ」

「何?嫁候補遂に見つけたの?」

「は、話をややこしくしないで下さい・・・!

どさくさに紛れてちゃっかりと手を握っているあたり何と言うか。
慌てるは後ろから尋常ではない殺気を感じ取っていた。やべえ。

「貴様等・・・」

イライラの臨界点突破、核反応制御不能。

「彼女がお嫁さんになってくれれば万事おっけーとか思ったんですけど・・・

MZD、よくよく考えてみたら・・・」

「あー、そりゃ無理だな」

へらへらと彼は再び笑う。どうやらMZDと言う名前(?)らしい。生粋の日本人には言い辛い名前だ。

「だったらさっさと帰「だったら向こうに連れて行けば良い話だな」

は、と同じような空気の抜けた間抜け面になる上司と狗。
そういう問題じゃねえんだって、と呆れる神と緑頭。
すっかり眠るつもりで居た、金髪と黒髪。

「よくよく考えたらそっちの方が良いではないか。

こちらとあちらを行ったり来たりしなくても良い訳だ」

「いや、よくねーから

「そうと決まればさっそくあちらで挙式だッ!!行くぞッ!!

「うぇ!?」

「アッ、ちょっとおじ様!?」

ぐい、と抱き上げられた(所謂お姫様抱っこ)
彼女の意思に反してと言うか最早聞く耳持たずなヴィルヘルムは鏡に向かって飛び込み、





消えた。





「・・・・・・」

「・・・行っちゃった・・・」

「えー・・・とりあえず分かった俺が連れ戻してくるからそんな何か物騒なもんこっちに向けんな

最早無言で圧力をかける極卒を簡単に例えるとメルトダウン一歩手前と言った所か。
笑顔が逆に怖いぞ、三佐。

仕方ない、ちょっと待ってろよ、と緑と黒の二人に言い聞かせMZDも水銀の海へと飛び込んでいく。
残ったのは黒い三佐の苛立ちだけ。

彼の冷めてしまったお茶も、煮え立たん勢いだった。















「おー居た居た」

「神、何の用だ」

何の用って・・・と苦笑いする。恋は盲目とは良く言ったものである。

「何の用って今度はお前とその子を連れ戻しに来たんだ

早くしなきゃその子手遅れになっちまう」

「・・・?」

抱き上げられぐったりとしたには別段おかしな所は無い。
うっすらと薄く向こう側が見え始めているという意外は。

「!」

「やっぱりな。向こう側とこっち側じゃ通り抜けるのに幾つかの障害がある」

「どういう事だ」

「別の世界に行くにはそれなりの力を持ってなきゃ駄目って事だ。

だからあの二人は俺が連れてきたんだよ。半人前じゃ無理だから」

がっくりとヴィルヘルムは頭を垂れた。
ぎゅう、とを抱く手に力が入る。

「お前だって十分な力を持ってる。何てったって空間に穴開けて別世界に行くぐらいだし。

だけど慢心しすぎって奴だ。

いくらなんでも別世界の人間を無事に通り抜けさせるほどの力はお前にゃ無いよ。

まー、俺にも無理かもしんないけど。さあ、向こうへその子を連れて帰るぞ」

「・・・・・・分かった」

おろ?随分と素直だな。とMZDは少し驚いた。

「・・・・・・その代わりに、」




















それからまあ一ヶ月ぐらい経っただろうか。いい加減だがそれぐらいだ。
カレンダーの大きな花丸印を見ては少し苦笑した。

そんなもん消してしまえ

消さなくていいぞ、

肉じゃがを頬張りながら二人の上司はそう言った。
苦笑するのは狗とその部下。何時の時代だって何処の世界だって部下は上司に悩まされるのである。

ちゃんおかわりーっ」

「え、あ、はい。分かりました。緑さんも如何ですか?」

「それじゃあ、遠慮なく頂きます」

ヴィルヘルムが出した一方的な交換条件。馬鹿馬鹿しい程くだらない内容だったが、

「此処の所ずっとおじ様が仕事を頑張ってくれるのでこちらは有り難いですよほんと」

「なんていうか通い妻状態?

もぐもぐと皿ごと食べん勢いで肉じゃがを頬張る酷卒。
妻か・・・いい響きだな!完璧に頭が煮えているヴィルヘルム。

もう説明するのも馬鹿馬鹿しいが彼が出した条件は
仕事は頑張るからたまにに会わせてくれ

とか言う条件と言うか一方的な我侭だった。
仕事頑張るんだったら良いか!と、とてもいい加減な神がOKサインを出した事によって今に至る。
ちなみに付いてきている緑君は監視役兼連れ戻し役である。

「全く何でボクの許可無くそんな事になってるんだ、カニパン」

「お前の許可なんて貰っても仕方ないだろう」

何だと!?と席を立って喧嘩腰な我等が三佐。
おう、かかって来い、と言わんばかりにヴィルヘルムも席を立ちガンの付け合いである。

「たまにはこういうにぎやか〜なのも悪くないかもね」

「はあ・・・」

軍基地に有るまじき賑やかさには苦笑した。
・・・でも、たまにはこういうのも悪くないかもしれない。










「・・・何だか下の階が煩いな・・・」

その頃一つ上の階のお髭の一佐はそう思ったとかなんとか。










**********後書き
とりあえず狗も〜シリーズはコレで終わりと言うか導入部分と言うか。
ヴィルヘルム絡みのお話はまた書きたいと思います。
これ書き終わったからもういつでもヴィルの短編書けるぞ!(笑)
しかしひでえ終わり方だ。