「で、」

お前ら一体なんなんだ





   





一方はにこにこと人の良さそうな笑みを湛えていた。
もう一方は眉間に深い皺を寄せためんどくさそうな顔をしていた。

立っているのは鏡の前。簡単に言えば彼らはそこから出て”きたのだった。
不審そうな顔で見ているごくそつ達に気づいたのか緑色の髪を揺らして彼は言う。

あっ、申し送れました。僕達おじ様を迎えに来た者です

名前はいえませんけど決して怪しいものじゃありませんので!

「・・・それってかえって怪しすぎないか緑さん」

はあ、とため息をつきながら黒髪の彼が小さくぼやいた。びし、と裏拳で突っ込みも入れていた。
そうかなァ、と緑色の髪がまた揺れる。

「そうだぞ、怪しいから大人しくお前らは帰れ

珍しく少し焦ったように言葉を返したのはヴィルヘルムで。
訝しそうに極卒が視線を横に向けた。

「と・・・とにかく私はお前らなんぞ知らん

「水臭いですねおじ様」

「そうだぞ馬鹿上司

何・・・!?

むか、と明らかに不機嫌を露わにしたヴィルヘルムにが焦った。
慌てて彼らの間に入り、言う。

「え、えととりあえずお茶でも飲みながらゆっくりお話しませんか・・・?」










えーと・・・まずどうしましょう・・・

少し狭くなった(何せこの場に大の男が5人も居るのだ)テーブルを囲みながらが視線を泳がせた。
じゃあ、と緑色の髪が揺れる。

「まずは自己紹介から・・・」

「緑さん合コンとかじゃねえんだからさ・・・」

「いや、」

言葉を遮ったのは極卒。ぎろりと睨みをきかせながら腕を組んだ。

貴様等が我が賽の川基地に不法侵入”してきた限りボク等は貴様等の正体を知っておく権利がある

「僕等のことそんなに信用できませんか・・・って当たり前ですよね」

困ったように眉根を寄せて緑頭が黒髪を見た。

「・・・あんた等には悪いけど決まりで名前は明かせないんだ」

「えと・・・でもとりあえずヴィルヘルムさんとはお知り合いなんですよ・・・ね?

が小さくぽつりと呟いた言葉に二人が目を見開いた。

「ちょ、ちょーっと待った。バ閣下アンタ何名前晒してんだよ

「名前は明かさないってきまり作ったのおじ様じゃないですか」

「うるさい、きまりなんぞもう知らん」

フン、とヴィルヘルムがそっぽを向いた。

「・・・ハァ!?なに勝手な事言ってんだよバ閣下ふざけんのもいい加減にしろよ」

「ま、待って黒君。怒ったら負けだよ

がたりと立ち上がる黒君”を緑さん”が押し留めた。
その様子をじっと見ているごくそつ達は未だに沈黙を守ったまま。

そんな中どう言葉をかけていいものか悩んでいるをヴィルヘルムが引き寄せた。

私はこの世界でと一緒に生きてくと誓ったのだ

「・・・えっ

ふざけるな!!!

それまで沈黙を守っていた極卒がテーブルをひっくり返さん勢いで立ち上がった。

黙って聞いていれば訳の分からん事を抜かして・・・!ボクをおちょくるのもいい加減にしろ・・・!

「うん、まあとりあえず皆落ち着いて?

ずずずと紅茶をすすりながらのんびりと酷卒が言葉を返した。
ちゃっかりどさくさに紛れてをヴィルヘルムから奪い返すのだけは忘れない。
放心状態のをちょこんと膝の上に乗せた。

「名前云々はとりあえず置いといて、最初から説明してくれないかな、かな」

「まあ・・・そうですねえ」

ふむ、と緑頭がまた揺れる。

「どうして僕達がおじ様を探しに此処までやってきたか・・・ぐらいからですかね」

「んなもん詳しく話す必要なんかねえだろ。家出だぜ家出この年で。冗談じゃねえ

家出・・・?

極卒と同じように腕を組みながら明らかに怒った口調で黒君”が発言した。
びく、と少しだけヴィルヘルムの肩が揺れた。

「・・・家出・・・ですか・・・」

「ああ、そうだ。全くふざけてるだろ?

・・・そんなんだから何時までたっても嫁がこねえんですよバ閣下殿

フン、と完璧馬鹿にして黒君がヴィルヘルムに冷たい言葉と笑いを浴びせかけた。
と唇を噛み締めながらヴィルヘルムが睨み返す。

「っ、元の原因といえば貴様等だろうが!!!もっと目上の者を尊敬しろ!敬え!!!

自分からそんな事言い出す上司を敬えっつー方が無理なんですがバ閣下ー

「ちょっとおじ様も黒君も落ち着いて・・・」

「「うるさい!!!」」



ふうー・・・と長いため息を吐きながら緑さんが椅子に座りなおす。
憂いた視線の先の二人はガンつけながら何か罵倒しあっていた。

「・・・まるでガキの喧嘩だな

「あっ、ボクもそう思ったー」

「は、はあ・・・」

やっぱりそう思います?と緑色の頭をぽりぽりとかきながら緑さんが苦笑した。

「あの二人いつでもあんな感じで・・・困っちゃいますよね」

「・・・もしかしてその、ヴィルヘルムさんの家出”の原因って・・・」

「ご明察です。黒君と喧嘩して・・・

あっ、でも今回の原因は確か仕事から帰ってきた時にどうしてお帰りなさいお疲れ様”が言えんのだ!

・・・とかそんな事が原因だったような・・・」

ずる、とがややずっこけた。極卒はというとすっかり冷めたような表情で紅茶を啜っていた。

「・・・馬鹿馬鹿しい。そんなくだらない事で揉めてるようなばかにぱんには嫁が来ないのも当然だ」

「そうなんですよ、おじ様、僕等一族の中でももう結構いい年なのに未だにお嫁さんの伝が無くて・・・」

ちら、と緑さんが酷卒の膝の上のを見た。
眼をあわせられたはきょとんとした表情で。

「こんなこと言っちゃアレですけど、

僕としては貴女がおじ様のお嫁さんになってくれれば万事おっけーなんですが・・・」

却下だ

なんで君が拒否るのさ

いや、それはアレだな、としどろもどろにごにょごにょ言っている極卒。
そんな極卒を尻目に緑さんがに言い寄った。

「でもおじ様随分貴女のこと気に入ってるみたいですしー」

「えっ、・・・そ、そんな事言われましても」

「・・・駄目ですか?

きゅ、との手を優しく握り緑さんは困ったように微笑んだ。
本人はそういうつもりは無いのだろうがこの分類の笑みと言うものは
笑みを見ている被害者”が何故か自分が悪い事をしたように思ってしまう、
そういう純粋な悪意の篭った笑みだ。本人にそのようなつもりが無いのがネックである。

「貴女みたいな人が家に居ておじ様の帰りを待ってくれればきっとおじ様も機嫌直ってくれると思うんです」

「え、ええとヴィルヘルムさんが自分の家に帰る事は確かに大事ですけれども・・・」

「かわいそうなおじ様のお嫁さんになってあげてください」

「ソレとこれとは・・・。は、話が違うといいますか・・・

すっかり善人オーラに伸されてしまったはずるずると相手のペースに巻き込まれていく。
その様子をぎりぎりと唇噛み締めて睨む弟。が膝の上で大人しいので割りとご機嫌な兄。

未だ子供のような口げんかを続ける赤い頭と黒髪。





まだまだ収束の方向には行きそうにも無い。










**********後書き
まだ続けるのか(ごめんなさい)
次、・・・次ぐらいで終わる!・・・多分。