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この時間を無駄にしたくない。
もしかしたら次の瞬間に死んじゃうかもしれないから、だから、
ボクは君にお話しをしようと思う。
は
と
む
ね
せ
ん
そ
う
ご
っ
こ
「
少し、長い話をしようか
」
つぐみの腕の中で酷卒が口を開いた。
「ボク達のこと、君に知って欲しいの」
「・・・ボクも正直言って自分の事はあんまり良くわかんなかったりするんだけどね」
「ただ、物心ついた時にはボクは偉い軍人さんに人をどうやったら痛めつけられるかとか
失神させる方法とか、確実に殺せる方法を習っていた」
「えっと・・・それが英才教育ってやつだっけ?とにかくそれ」
「ボクはそんな毎日が楽しかった、何故ってボクに唯一人弟が居るって事を知っていたから」
「頑張っていれば、いつか彼に会わせて貰えるって毎日毎日教官さんに励まされていたから」
「ある時その日は突然やって来た。ボクは彼に会えることになった。
真っ白で何も無い部屋に、彼は部屋と同じ白いベッドの上に座っていて、
周りには耳を押さえてぶつぶつと何か小声で呟いている大人がいた。
わくわくしながら部屋の中に入ってきたボクを見て、彼は怯えた目でこう言った」
「
気持ち悪い
」
「その時からボク達兄弟は始まったんだ」
「ボクはさらに毎日が楽しくなった。可愛い弟はボクに余り口を利かなかったけど
ボクが嫌いだというわけではなかったんだ。だからそれが嬉しかった」
「ボク等は大きくなってその個性をどんどん伸ばしていった
ボクは、殺人術とかまあなんかそういうの。彼は話術と統率力、
カリスマって奴?
」
「二人組んでお偉いさんの命令聞きながら色々楽しくやった。その頃だったかな、
ボク達が初めて人を殺したのは
」
「・・・君さ、
虫殺す?
蚊とか。
・・・
ボクは人を殺すときそんな気分だった
」
「自分の周りをぶんぶん飛んでくる羽虫をべちんと潰す気分さ」
「・・・それでまあ、正直ボク等はやりすぎちゃったんだ。お偉いさん達からは疎まれた」
「ボク等は力を持ちすぎちゃったのさ」
「特に彼は、危険視された。・・・彼の演説には洗脳性と中毒性があったんだ」
「だから、こんなトコに飛ばされたんだ。二人揃って飛ばされたのは幸いだった」
「お偉いさん達はここならボク等が何しても全然大丈夫だと思ったから、ここへ」
「都心部よりずっとずっと離れてるし、もともと刑務所みたいな場所だしね
ボク等は囚人なのさ。ここで働いてる兵士達も何か問題があったから此処へ飛ばされた人ばっかり。
・・・刑期はずうっとずうっと死ぬまでってトコ?あはあ、死刑囚かそれは」
「でもボク等はのんびりやってた。楽しいかは別としてね」
ぱち、と酷卒が目を開けた。
「・・・あは、ごめんね。ボク何言いたかったのか良くわかんなくなっちゃった」
「・・・良いんです、続けてください」
じゃあ、と酷卒が言葉を続ける。
「お髭の一佐のこと、教えてあげようか」
「一佐はね、監視役なんだよ。ボク等の。可哀想に神経擦り切れそうになってるけど
忠実にお偉いさんの命令を聞いてる。・・・えらいね」
にこ、と微笑んで恥ずかしそうにぽりぽりと酷卒が頭をかいた。
「ええと・・・あのね、・・・。・・・・・・正直言って、さ。ボク、君を連れて来いって彼に言われた時
また彼の気まぐれでボクにぶちゅんと潰されちゃう可哀想な子だろうな
・・・って思ったの」
「
そんな事なかった
」
「君は羽虫でもなんでもなかった。
・・・・・・初めて、人を、彼以外の人間を
すきだな
、って思った」
「・・・でもその
すき
、っていうのも何か、その」
「彼のとは、違う気がするんだ。上手く言えないけど」
「・・・まあええとそれは置いておいて、ね」
「・・・・・・・・・・、ボク達のこと、分かってもらえたかな、・・・ごめんね、説明下手で。
でも、君には知って欲しかったの。・・・また何時こうやって伝えられるか分からないから・・・」
「酷卒さん・・・」
つぐみの膝からゆっくりと起き上がる。
ベッド脇に座る、その後姿が妙に遠くに感じられた。
「ほんとは、・・・。君には隠し事なんてしたくないんだ・・・言いたくない事、だけど」
「でも、」
くる、と振り返る。いつもの笑みはそこには無く、真剣な顔。
双眸がじっとつぐみを貫いた。
「・・・また、いつか言えると思うから・・・今は言わないね」
ぐ、とベッドに乗り上げる。
ゆっくり、愛おしそうに前髪を撫で除け、ちゅ、と軽い音を立てて口付けた。
「・・・・・・」
「・・・それじゃ、ボク行かなきゃ・・・。彼が待ってる」
じゃ、おやすみ 小さく手を振りながら酷卒が部屋を出て行く。
残されたつぐみはぽかんとした顔をして、
「・・・・・・」
そっと口付けされた場所を手で撫で、ゆっくりと頬を染めた。
「
失礼しっまーす
」
がちゃ、とドアの開く音。間の抜けた声。
「・・・来たか」
ふう、と一佐が息を吐いた。
「
もーなんかすっごい迷っちゃった!
こんな事ならずっとつぐみちゃんと一緒に居れば良かった」
「
いっその事地の獄の藻屑となれば良かったのに
」
ぼそりと極卒が実に忌々しそうに呟いた。
何かの恨みでも籠めているのか。
「・・・まあそれはともかくとして・・・奇襲作戦にお前が必要だ」
「
おろろ?
まあ珍しい」
首を傾げながら酷卒が円卓に加わる。
バン!
と机を手で打ち付け、極卒が言った。
「それでは作戦名〝
黄燐
”の作戦会議を始める」
耳が痛くなるほどの静寂の中、電球の光が揺らめいていた。
その光をじっと見つめながらゆっくりと目を瞑る。
まだ顔が火照っている。
もう何も考えない事にしよう。
そのまま無意識へ自分を落とす。
今はゆっくり休まなければ。早く回復しなくちゃ。
あの人達の役に立てるように。今すぐにでも。
**********後書き
さてさてこの調子で終われるのか。
次から怒涛の蝶展開で進めまs(ry