・・・・・・。














「・・・・・・」

私の視線の先には必死で生の芋を頬張る少年が居た。
彼は私に気づいたのか、ひっ。と小さく悲鳴をあげると私に向かって謝った。

「ごめんなさいごめんなさいっ・・・ごめんなさい・・・!!!

ぼろ、とその手から芋が落ちた。彼の足元には麻袋。
食料庫からくすねて来た芋なのだろう。いわゆるつまみ食い”と言う奴である。

その少年が必要以上に怯えているのは多分私の顔が青痣だらけだからであろう。
醜悪なピエロにしこたま殴られた私は心底疲れていた。
勿論、この少年を怒鳴りつける気力など無いし、怒鳴るつもりも全く無い。

ぽす、と震える彼の頭に手を置き、

「見つからないように気をつけるんだよ」

と言うと
ぼろぼろと涙を零して礼を言われた。

「ありがとうございます、兵隊さん」

・・・・・・兵隊さん、か、・・・・・・。




















「さて・・・どうなさるおつもりですかな、一佐殿」

壁に貼られた見取り図を見ながら極卒が笑う。

「・・・随分元気になったじゃないか極卒」

椅子に座った一佐が同じように笑い返す。
極卒が小さく「お陰様で」と呟いた。

「・・・こんな状況だと抜け穴からの奇襲作戦ぐらいしか思いつかないな」

ふむ、とヒゲを撫でながら一佐が立ち上がる。
腕にかかった包帯にぽつりと雫が垂れた。

「奇襲・・・ですか」

極卒が浮かない顔をする。

「なるべく向こう側の兵士を傷つけたくは無いんですがね・・・」

決して相手を可哀想に思って言っている事ではない。
年端もいかない少年やカモフラージュの為に連れて来られた民間人、
その存在が奇襲作戦をも難しくしていた。

いくら向こう側が仕掛けてきたとはいえ、一般人を巻き込むことは戦争のご法度。
気安く攻撃をかけることは出来ない。
相手側の戦力でありながら、人質でもあるのだ。

「ならば君はどうするつもりかね?」

「・・・ボクだったら

くるり、と踵をかえて一佐の方へ向き直る。
その顔には意地悪そうな笑みと自信が満ち溢れていた。










うむむう・・・

目を擦りながら酷卒が身じろぎする。
ぱち、とまだ眠たそうに目を開けて、

「・・・・・・あれ」

ぽかん、呆然と口を開けた。

「起きましたか?酷卒二佐」

ふわりと微笑む彼女が輝いて見えた。
やーらかくてあったかい手が優しくボクの頭を撫でている。

・・・・・・あれ、これ夢?っていうかボク死んだ?もしや天国?

がばりと起き上がってぎゅう、と抱きしめればあの手と同じ温かくてやーらかい感触。
ひゃっ と小さく悲鳴を上げたのが聞こえた。
頭に手を回して撫で回す。さらさらと髪が指の間を流れる。
ふわ、とあのボクの食欲を誘うなんともいえない美味しそうな香りで鼻腔を満たす。

「ああ、ボク生きてる・・・

「・・・あの・・・二佐?

もごもご腕の中でくすぐったそうにちゃんが困ったように呟く。
やや、これはこれは申し訳ない。

「・・・うん。ごめんね。そのちょっと嬉しかったから」

「?」

きょとんとした表情でボクの顔を覗き込んでくる。かわいいなあ!

「ボクね、ずっと君を看病してたんだよ」

「はい」

「ボクね、ボクね、寝ないで頑張ったんだよ」

「はい」

「ボクねボクねボクね、あふれ出るリビドーを抑えたんだよ、偉い?

「・・・・・・」

不意にちゃんがボクの手を握った。


「ありがとうございます。・・・酷卒さん」


そうやって、おかあさんみたいに笑ってくれたちゃんを見てたら、
みて、たら、


ぽろ、ぽろと。冷たいものが頬を伝う。
こんな風に泣くなんて、一体何時ぶりだろう。

目の前がじんわりと水に包まれる。ぐにゃ、と風景が歪んだ。

瞬きをすると涙はボクから離れて布の海へ落ちていった。
何かがぼろぼろ崩れる音が、・・・聞こえた気がして。


薄闇に重なりあった影がぼうっと浮んでいた。
泣き崩れる酷卒をがしっかりと抱き留める。

良かった・・・っほんとうに、よか、良かった・・・っ」

ボク達を残していかないでっ・・・残していかないでよお・・・

いかっ・・・いかないで・・・っ





「残してなんていきませんよ」

抱きつく酷卒をじっと受け入れながらが言う。



残してなんて、いけません



ぎゅう、と子供のように抱きつきながらぽそりと呟く。

「・・・もう・・・ちょっとだけ、・・・甘えてもいいかな、・・・かな」

が返事の代わりにゆっくり酷卒の頭を撫でる。
くすん、と小さく鼻を鳴らし、心地良さそうに目を閉じると、言った。





「・・・ねえ、このままでいいからボクのお話、聞いてくれるかな・・・」










**********後書き
繋ぎのお話、なのですよ。
はてさてごっくんが思いついたらしいアイディアはどうするか・・・(考えてない)