こんなに取り乱した極卒は初めて見た。














「・・・全く、貴方が生きてくれて助かりましたよ、一佐殿」

「・・・稀にない本音だな、明日は槍でも降るかね?」

おやおや手厳しい、と言って極卒が力なく笑んだ。
極卒が帰ってきたのは2時頃。今現在はもう夜に差し掛かっている時間帯だ。
・・・地下に居るのでいまいち時間感覚が狂うが。

「松葉杖は使わなくてもよろしいので?」

「私をそうそう舐めないでくれ給え、極卒・・・。撃たれたのは肩だ」

じんわりと痛む肩口の傷に手をかけて笑った。

「・・・で、君は?」

ぴく、と笑みさえ浮かべなくなった唇が動いた。
一息置いたあと、

「・・・今は獄卒が看病しています

と言って顔を逸らした。



















・・・その数時間前、部屋の中に場面は戻る。



「・・・、ごほっ」

床に倒れていた一佐を起き上がらせた。
ひい、と掠れた息を吐いた。

この基地って死んだ振りうまい人多いね〜・・・

「何の話だ?・・・それにしても一佐殿、大丈夫ですか」

す、と白い手が出されて、多少びくつきながらも一佐がその手を取った。
よろめきながら立ち上がる。肩口に乾いた血がこびり付いていた。

・・・射撃の下手な奴で助かった・・・

ぼそりと呟く一佐に極卒が詰め寄る。

「一佐殿はこれから獄卒と一緒に兵士達を招集、地下に避難させてください」

「・・・。閉鎖された地の獄を開くのか・・・」

「止むを得ません。緊急事態ですし。

それにこの基地を全て網羅しているのは今や貴方しか居ないでしょう?貴方が頼り・・・」

君はどうするのかね、極卒

ぴた、と喋る極卒の口が止まった。

「・・・ボクは、・・・・見取り図を回収しに行きます」

「素直ではないな」

呟いて腰のホルスターから拳銃を取り出した。
バレルを持ち、極卒に差し出す。

「持って行き給え、極卒」

「ありがとうございます、一佐殿」

にこ、と軽く微笑む極卒が、酷卒の肩を借りて天井裏へと消えていく。

一佐殿はボクが責任もって皆の所へ連れて行くからね〜っ

ぶんぶんと酷卒が笑顔で手を振った。










それから、集まっていた兵士達を地下へ誘導した。
・・・助けられなかった同胞達もいた。

・・・全く、過去最悪の日だ

自分で傷口を消毒しながら天井を見た。ぽつり、と雫が降ってきて雨漏りか、と顔をゆがめる。

これからどう体制を立て直すか。
向こうがその気であればこちらも地下からの奇襲と言う手もある。

作戦を考えていると、





バタン!!



と扉が蹴り開けられた。
顔を向ければ、肩で息をしている極卒と酷卒が立っていて、

「・・・っ、一佐殿!!が、・・・がっ

慌てて駆け寄る。
極卒の腕の中で君がぐったりとしていた。
ぽたぽたと鮮血が垂れている。

「・・・撃たれたのか?刺されたのか?」

「刺し傷みたい、結構深いからすぐに処置しないとだよっ

部屋の中にあった毛布を床に敷きながら酷卒が言う。
そこに君を寝かせるとじんわりじんわりと毛布に血が滲む。

死ぬな、頼む・・・!!イヤだ、イヤだっ・・・イヤだ

ぎゅ、と君の手を握りながら極卒が呻いた。ぱらりと、分けられた七三が乱れる。
目が据わっている。


「獄卒二佐、手術用の針と糸を頼む。とりあえず傷口を縫う。

・・・それと、極卒三佐を此処から離してくれ

「・・・分かった、よ」


そういうと、がし、と酷卒が極卒を羽交い絞めにした。
髪の毛振り乱しながら極卒が叫ぶ。

「何するんだっ、止めろ!!

止めないよッ!!

ずりずりと半ば引きずる形で極卒を引っ張っていく。
がたん、と暴れる極卒が倒れて、呻いた。

「イヤだ、離せ、・・・イヤだ、離してくれ・・・っ!! 一緒に居るんだっ

がりと床に極卒の黒い爪が食い込み線を引く。
苦しそうな顔をしながらと酷卒が引きずる。

バタン

ドアが閉まる。



・・・う・・・

君?大丈夫かっ?」

小さく呻いたに一佐が話しかける。

「これから君の傷口を縫う。・・・麻酔が無いから相当苦しいだろうが、大丈夫かね?」

うっすらと目を開けたが朧気に一佐を見る。
再び目を閉じて、絶え絶えな息を整える。

ゆっくり、頷いた。










・・・なせ・・・離せッ・・・!!」

酷卒が座り込んでいる極卒を引きずる。
ぶんぶんと手を振り払おうとするがびくともしない。

「・・・」

極卒が、止まった。

ぽたた、と床に雫が垂れる。

怖い・・・怖い・・・やだ・・・イヤだ・・・

ぼろぼろと泣き出した極卒を、酷卒が抱きしめた。

「泣いちゃ駄目だよ、ね?後は一佐殿に任せよう。ね?」

「怖い・・・怖いよっ・・・!!

泣きじゃくる極卒の背中を撫でて、微笑んだ。

お兄ちゃんが一緒に居てあげるから・・・。

ちゃんが大丈夫でありますように、ってお祈りしようね・・・



ぽつり、

と雫が滴る音が廊下に響く。

涙か、雨漏りかは、分からない。



ぽつり・・・ぽつり・・・。










**********後書き
ちょこおっとだけ前の時間に戻るのですよ(説明無いと分からんがな)
無くした時間を一佐視点で補完。