私が戻ると、すでにあの人は居なかった。

ただ、厨房の窓が一つ開いていただけで、












・・・・・・・・・・う・・・ん

目を開けた。見知らぬ天井。薄暗くて何だか湿っぽい。
すっ、と視界の脇から白い手が伸びてきて頭を撫でた。

「大丈夫かい?」

「・・・二佐」

にこ、と優しく微笑んだ酷卒が覗き込んでくる。

「良かったぁ、もう一時はどうなるかと思っちゃったよ〜」

「・・・此処・・・どこですか?・・・一体何が?

ゆっくりと起き上がりまわりを見ようとしたを酷卒が静止する。

「まだ寝てなきゃ駄目だよ〜、傷が開いちゃうじゃないの。

君襲われたんだよ!ってボク達もなんだけどさあ」

「襲われた・・・?」

ぽすぽすと頭を撫でながら酷卒がさっきの問に答えた。

「んーまあそれはともかく、此処が地の獄”の本当の正体さ」

「・・・?」

「あれ?君達はと小屋通って来たんじゃなかったっけ?

・・・ってちゃんはそんな事覚えてないか。そんな暇じゃなかったし」

「・・・はと小屋・・・?」

「あー、ここねえ地下なんだ」

えへへ、といつもの笑みを湛えて酷卒が言う。
薄暗くて、湿っぽい。嗚呼、地下だからか。となんとなく納得する。

・・・問題はそこではないが

「まあ色々端折るけど、向こうさんに奇襲かけられちゃってね、ボク達一旦撤退したの」

「・・・向こうさん?隣の国の軍ですか?」

心配そうに見上げるの頭を酷卒が撫でる。
落ち着いて聞いてね、と言って微笑んだ。

「向こうさん、ボク等の基地が欲しいみたい。だから奇襲かけたんだと思う」

「・・・」

「ボク等のほうも色々あってね、・・・結構痛手って感じかな、かな」

「・・・だから一旦撤退して体制を立て直しに?」

「うん、基地内の兵士はほぼ全員この地の獄”に避難。被害が酷くならないうちに」

「・・・ほぼ全員・・・ってそんなに広い地下なんですか・・・?此処・・・」

きょときょとしながらが部屋の中を見回した。
古ぼけた部屋の中、裸電球の粗末な明かりがちろちろと照らしている。

「広いよ〜、此処。そりゃあもう、ものすんごーく。広いし、複雑

わくわく、といった感じで酷卒が続ける。

「あんまりに複雑すぎて逆に閉鎖されてたんだけどね。行方不明者とか出ちゃったからさあ・・・。

だから知ってるのもボク等とか、お髭さんの一佐とか古株ぐらいかな?

それにしてもボク久しぶりに此処入ったよ!わあなんかもうドキドキしちゃう!!

するなアホンダラ

ごっ!と半ば懐かしい音がして酷卒がの寝ていたベッドに沈んだ。
視線を上に向ければ、

極卒三佐!

「・・・気分はどうだ、

ベッドの脇に座り、極卒が話しかけた。手を伸ばしてゆっくりとの頬を撫でる。

「あ・・・、え、っと、大丈夫です」

「・・・そうか、なら良かった」

「あ、あのっ、三佐が・・・此処まで運んでくださったんですか?」

「ああ、はと小屋通ってな」

はと小屋。はと小屋ってもしかして前に見たアレ?
ぱちくりと瞬きした、未だに状況が良く飲み込めないに極卒が気づいた。

「・・・あの、私何が起こったのか全く分からないんです・・・一体何が?」

「この基地内には地下があるって事はこのアホンダラに聞いたか?」

「あ・・・はい。さっき聞きました。此処の事ですね」

「閉鎖されてた事も、隣国の軍に奇襲を掛けられた事も?」

「はい、・・・とりあえずは」

だったら話は早いな、と言って極卒が語りだす。

「奇襲をかけた反逆者と向こうさんの兵士共はこの基地の見取り図を欲しがっていた。

だから奇襲をかけた。お前が昼飯喰いに行ってる間にな

・・・多分この基地を乗っ取って帝都へ攻めるつもりなんだろう」

「・・・えっ、帝都へ?・・・それって、我が国へ攻め入るって事ですか!?」

そうでもしなきゃこの基地に乗り込んだりしない

ばさ、と懐から紙束を取り出しに渡した。
起き上がってソレを見る。

・・・その、コレって・・・もしかしてあの・・・凄く重要な書類じゃないでしょうか・・・

菊の紋が押された古めかしい書類。いわゆる機密文書”と言う奴か。
ふ、と書類を見回せば仰々しい字で

「ぐ、・・・・軍機”・・・・・・・!!!?

「ああ、そうだが?この地下にしまってあったものだ」

「こ、こんなもの私が見ちゃっていいんですかっ!?

慌ててその書類を極卒に渡した。
なんでこんなに焦るのかというと、軍機”が意味する言葉は最高の軍事機密、だからで。
漏洩探知すればそれは最高の罪、つまり死に値するのである。

「・・・まー、良い訳ないだろうな〜

じゃあなんで見せるんですか・・・!!

「それはともかく、」

ともかくじゃないですよ・・・!!が半泣きで突っ込んだ。
なかなか元気じゃないか、と極卒が笑う。

「この基地は・・・こういう文書や兵器を沢山有している。

だからボク等やお前を襲った奴等は此処へ乗り込んだんだ。まず都心部を攻めるとかそういう事をせずにな

「文書・・・や兵器・・・」

「この国も綺麗な事ばかりしているわけではないのでな。世界には公開出来ない秘密も沢山ある。

・・・それに〜、」

ぴっと中指を立て虚空を指差した。

「・・・お国の端っこでならいくらでも戦闘していいとお偉いさんは思っているからな

「・・・それは、・・・どういう事ですか・・・

機密文書や兵器を狙ってこの基地に乗り込んでくれば、都心のお偉いさんの巣や国民は無事、だ。

・・・つまり、対策を練れるし逃げる暇もある






我が賽の河基地の存在意義はそこにある





が苦そうな顔をしているのをみて極卒が笑んだ。
ぽす、と頭に手を置き、言う。

「・・・そんな顔をするな。不条理なのは良く分かっているんだ、・・・ボク達も

「・・・だがそれに従わなければならない、我々はお国に勤める兵士だからな

だからってそれ・・・は、・・・そんなの、まるで囮じゃないですか」

良く分かってるじゃないか、と極卒が言う。
すりすりと頭を撫でる。

「でまあともかく、向こうさんの狙いはずばりこの基地まるごとと見取り図だ

・・・さっきから見取り図・・・って言ってますけど・・・

なんでそんなもん必要なのか?みたいな顔だな、何でこの地下が閉鎖されてたか聞いたのか?

「え?・・・えと確か、複雑で行方不明者が出たから・・・ですか」

「そうだ、複雑すぎて見取り図でもなきゃ”歩き回れない」

「・・・あ!

はっと気づいた。
唯でさえ広いこの基地のその地下。いくらこの基地を制圧してもその見取り図が無ければ
地下を探し回ることなんて出来ない。

「しかもご丁寧に地上の基地内にも幾つか隠し通路やら隠し部屋があってな・・・

結構長い期間この基地に勤めているがボクもいまいち構造が分からない。

拳銃盗難も案外その隠し通路やらを探すためにやっていたのではないかと今じゃ思ってる」

「・・・それじゃあ全く知らない向こうの軍にとっては見取り図が要になっている・・・って事ですか」

「その通りだ」

ぐ、とが身を乗り出した。

「そ、その見取り図は今何処に?まさか・・・」

「いや、取られちゃいない・・・。入ってください、一佐殿


え?と思っている間に


がちゃり


ドアが開いた。










**********後書き
せ、台詞と説明ばっかりだ・・・!!!
一話でいきなりごっくんが居なくなったのは隠し通路使ったからです。
今更!