臨戦状況、我等に勝ち目なし か?












ごろごろと足元に転がるのは忠実なる我等が兵士達。
哀れな姿になって・・・・ああ可哀想に

「なんでボクだけ残すのさ」

「貴様にだけは別に用があるからだ。獄卒、・・・いや酷卒二佐?

部屋に残っている数名の中のリーダー(と思われる)男ががちゃりとライフルを向けた。

・・・ボクをそうやって呼んでいいのは家族とちゃんだけ・・・

・・・それにしてもさっきまで居た女の人とか子供達はどこへ?安全な所へ〜?」

「・・・アンタが心配する必要は無い」

「おやまあそうですか」

ふう、と肩を竦めて足元の人間に言った


今だ、行け


あっという間だった。酷卒の一番近くに居た黒い兵士の死体”がむくりと起き上がり
目の前の敵にタックルを仕掛けた。

げほっ!

「今です二佐、銃を!!

「了解了解〜!よくやったね!

タックルをまともに受けて押し倒された男の手から銃を奪い、
その上に圧し掛かっていた味方の首根っこを掴んでぴゅううっと風の様に走る。

がたん!

大広間の端っこに寄せてあった机を飛び越しながら倒し、盾にする。
ばつんばつん、と銃弾が当たり穴が開いた。


くそっ!

苦虫を潰したかのような表情で男がその机を睨んだ。
まだアイツは殺せない。










「ひえ〜、間一髪ぅ。しかし死んだ振りとは良く考えたね〜」

「に、二佐首が絞まっ・・・

あ、ごめんごめんと言いながら兵士の首もとの手をぱっと離す。
けほけほと咳をする兵士に酷卒が手に持っていたソレを渡した。

「・・・これは二佐がお使いください。自分は大丈夫であります」

「いんや〜、コレは君が使い給えなのだよ。

君にこなして貰いたい仕事が出来たからね〜」

きりっと表情を正し、真っ直ぐな瞳で兵士が酷卒を見た。ぽたり、とその腕から赤い雫が垂れる。

いいかい?君はこれから他の仲間達と合流して。それだけでいい。とにかく合流

「なにがなんでも・・・ですね」

「そお、その通り。ここはボクがなんとかするからさあ」

すっと彼の手が動き敬礼のポーズになる。酷卒も、にこ!と笑って敬礼し返す。

行って参りますっ

そう言い終わらないうちに彼は机の影から飛び出し、





「撃てっ!」

ぱん、ぱん!と乾いた音がいくつもして、走る兵士の近くの壁を削った。

「・・・!?」

その彼らの視界の端に、ゆらりと目立つ緋色がうねった。

も〜っとボクの方を見て頂戴よ〜っ?

なっ・・・!あっちだ!殺すな!!生け捕りにしろ!!

向かってくる酷卒に気づいたのか彼らは銃を向きなおし、見る。
・・・おそいおそい。まあるで素人さん。

にまっと笑いながら、言った。

「ほろほろほろ!あのねえ、君たちみたいな素人さん”がさあ

・・・ボクに敵うと思ってる訳?

そう言って酷卒が猛烈な勢いで彼らに突っ込んでいく。

「っ!丸腰でっ・・・!!!?

「足を撃て、殺すな!!うてえええええ!!!

にんまり、と彼が笑い

べろん、と舌を出した。



それが丸腰じゃあなあいんだなあああああ?



舌の上で光る金属片を指に挟み、足に降ってくる銃弾を軽やかに避けた。

「なっ・・・ああああああああ゛??

「まずひとおおおおりぃいいい」

ゅぱ!金属片が照らされながら光の弧を描いた。
瞬間、手前に居た男の首に赤い筋が走る。


ぶしぃいいいいいいいいっ


噴水のように噴出す血を浴び、顔に付くソレをべろりと舐めた。

「さあてと、後ふたぁああありぃいいいぃ」

「ば、ばけもの・・・っ!!!

半分腰を抜かしながら一人が拳銃を酷卒に向けた。
はっ、と鼻で笑い首を傾げる。

「そんなへっぴり腰の弾に当たるつもりは無いなあ〜」

「ひ、く・・・喰らえエエエ!!!」


だん、だん、だん、だん、だん、だん

震えるその手から銃弾が放たれる。まるで当たらない。

「あは、どうしちゃったの?こんなに近い場所に居るのにさあ?

さあ、当ててご覧よ?

彼に近付き、ぐい、と銃のバレルを持って自らの額に向ける。

「ん?ほおら、早く〜」

「っ・・・・!!!」

かち、ん

っえ?弾がっ!!!」

「あはあ、弾切れか〜   残念だったね?

ずぱ!と微かに肉の切れる音がして、彼・・・だったものが倒れた。

「あと、君だけなんだけどさ〜、何してる訳?

酷卒の視線の先には倒れこみ何か機械のような物を弄っている最後の一人。
すっかり腰が抜けて、先ほどまでの覇気はまるでない。

「ひ・・・た、たすけ・・・



ガガッ



ノイズの音がして別の人間の声が聞こえた。

どうした!?何があった?

「い・・・いいえ。何でもありません。に、任務は滞りなく進んでおります」

・・・?そうか、報告ご苦労

ぶつっ と小型の無線機の音が途切れる。
その無線機を持つ彼を、しっかりと酷卒が拘束していた。

ウフフ、滞りなく進んでますだって〜?」

「たっ、頼む・・・命だけは・・・」

ご  き っ

何かが砕けるような嫌な音がして、それに続いてどさ、と重いものが落ちる音。

「ごめんね〜、そういう訳にはいかないんだあ。なんてったってボクを怒らせちゃったからね!

くすくす、と笑う酷卒の足元には
異様な方向に首を向けた彼の姿が。

「お詫びといっちゃ何だけど〜。コレ、あげるよ

ちゃりん、と軽い音がして血濡れの金属片が床に落ちた。

「剃刀ってさ、結構役に立つんだよね〜」

ふ、と顔を向ければ無残な姿の同胞達。
寂しそうに笑って、敬礼をした。

君達の死は、無駄にしないから










っう!!

ごっ、と銃のグリップで顎をアッパー。
もう何回目だろうか。ぽた、と口の端から血が流れた。

「・・・っは・・・まあそう乱暴するな・・・」

「・・・ふざけないで貰いましょうか

ふざけているのはどっちだ、と口の端を噛み締め、目の前の男を見上げる。
長身で、軍帽、黒い軍服に身を包んだ男。見覚えがある
良く見ようと更に上を向けば、ぎし、と椅子に縛られた手首と縄が悲鳴を上げた。

「(前の状況とまるっきり反対じゃないか〜・・・)」

「貴方が素直にこの基地の見取り図を渡して、降伏してくださるならこんな事しませんよ。

・・・勿論、貴方の大切な兵士にも」

「・・・大事なものは手元においておく主義だが・・・残念な事に今はうっかりそれを手放していてな」

にま、と余裕を含んだ笑みで笑う極卒をじっと見下し、言う。

「見取り図を渡さない、降伏もしない、ならば・・・。力でねじ伏せるまで、ですよ」

くるりと後ろを向き二人ほど部下を連れて彼は出て行った。

「(主犯格・・・か?・・・ええと確かあいつは・・・)」


確か・・・


頭がぼんやりと霞んできた。

「(くそっ・・・どうしたって言うんだ・・・)」

「(・・・。)」


がくり、と首がうな垂れる。

暗転。










**********後書き
ぜ・・・全然ヒロインさん出てこないじゃないの!(笑)