花も雪も 払へば清き袂かな
は
と
む
ね
せ
ん
そ
う
ご
っ
こ
ざく、ざくとスコップで雪をどけていく。
まだしんしんと雪が降る中、その音だけが世界に響く。
「・・・・・・はあ」
着込んだコートに顔を埋めが息を吐いた。
白いソレが風になびく。 寒い。
「帰ってきていきなりコレですか」
「それがどうかしたのか?さあさ、早く雪に埋もれたジャガイモを救出しろ」
分厚く黒い外套に身を包んだ極卒が同じく白い息を吐いた。
彼も同じようにその手にスコップを握っている。
「そーれに、こういう所の方がお話盗み聞きされなくていいしね〜」
アハハハ、と異様にハイなテンションで酷卒は雪をざくざくとかき(素手で)
しかもそれで雪だるまなんか作っていた。
寒くないのだらうか。
「・・・そういえば、なんですけど」
「何だね狗。発言を許可しよう」
ざく、とスコップで雪を掘る手を止め、は問うた。
「あの・・・第二保管庫の遺体の事なんですが、」
「続け給え」
ふう、と一回だけ息を吐き、また話し始める。
「何故・・・今頃になって発見されるんですか?
朝、二佐が一つ一つ拳銃を確認したとお聞きしましたが・・・」
「ボクが拳銃を確認した時に発見できたんじゃないかって話〜?」
もぐもぐと雪を喰いながら(!)酷卒が返事を返した。
「あの部屋さ〜、すっごおおく寒くなかった?」
「・・・え?あ、はい」
「まあそれはともかく、あの部屋ね、火気厳禁のね、第4類危険物の保管庫なんだあ〜」
聞きなれない言葉に思わずが顔をしかめた。
「第4類、ですか」
「うん、第4類危険物ってのは・・・灯油とか、ガソリンとかの事ね。
そんな部屋に銃とか置いておくかな?かな?」
さあっと血の気が引いた。そんな危ないものがある部屋で弾痕のある死体?
「うわ・・・今ちょっと鳥肌立ちました」
「でっしょ〜?だったらボクが第一発見者にならないのも分かるよね?」
「元から銃なんて置いてないからですね」
「まあそんな感じ」
ふふふ、と笑って再び雪だるまを作り出す酷卒。
それを横目で見ながらふ〜と極卒が深呼吸をした。
「しかしまあよ〜く大丈夫だったものだ、犯人も、ボク達も」
「・・・当たり所が悪ければ、ドカン・・・」
「あはあ、皆お陀仏じゃなくて良かったね〜」
けらけらと笑う酷卒の隣で、が引きつった笑いをあげていた。
「・・・で、先ほどの話だが・・・まあ良くボク等に知らせる気になったものだなあの人も」
「そりゃ〜さ、嫌われるような事しまくっちゃったけど、
今はそんな事言ってる状況じゃないし」
がスコップに手をかけて、顔を俯かせる。
一佐が伝えろといった事を、事細かに伝えた。
重なる、出来事。
「・・・確かに可笑しいといえばおかしいな・・・」
深く、長く息を吐き極卒が空を見上げた。
灰色の空が沈黙を守ったままじっと見つめている。
「あの家族の事も、だ」
「・・・・・・あの家族ですか?」
ざくん!
足元の雪にスコップを突き刺し極卒は話し始める。
「あの男が言っていた事・・・政府軍が急におかしくなった”と
もう一つ、亡命をする気なのかと拷問を受けた”」
「今までに無い事例だ。こんな言葉を亡命者の口から聞いたのは初めてだ」
「そだね」
「ですが政府軍が急におかしくなった”はともかくとして、
亡命する気なのかと拷問を受けた”というのは別におかしくないと思いますが・・・
その・・・普通は罰されるべきことではないのですか。祖国を捨てる、と言う事は」
「・・・・・・やりすぎだとは、思いますが」
ふむ、と極卒が腕を組んだ。
は凄惨なあの傷を思い出したのか、表情を少し曇らせる。
「貴様はこの基地に来た時に、言われなかったか?」
「え?」
「この基地は亡命者の受け入れもしている”・・・とか言われなかったかな?かな?」
「言われ・・・ました」
「つまり?我が基地の仕事に入るぐらい亡命者が頻繁に来るという事ではないかね?」
「って事はお隣さんは亡命者をどうしているって事かな?」
「普段は・・・亡命者は放って置いている・・・という事ですか?
だから拷問を受けた”という事自体がおかしいと?」
自身が無さそうにぽつりと呟いたの言葉に二人が拍手を送る。
「なかなか鋭くなってきたじゃあないか。それでこそ、ボクの狗に相応しいってもんだ〜」
「う〜ん、なんかボクちょっと複雑かも〜・・・」
小さくぼやく酷卒の隣で極卒が話を続ける。
「・・・革命軍が一つになっていたというのがどうも腑に落ちない。
もしヒゲの言っていた通りなのならば、政府軍は寝返った革命軍と一緒になって、
残った奴等を一網打尽にしてしまえば良いというのに」
「なんかのカモフラージュとか?」
「わざわざ兵器まで買い漁ってか?」
「!?」
極卒の口からすんなりと出てきた言葉に思わずぎょっとする。
「買い漁る?兵器を?・・・何処がです?」
「何処がってそりゃあ向こうさんに決まっているだろう。
人民は貧困で喘いで、亡命なんぞまでしているが・・・大半の理由は上層部が富の独占をして
好き勝手にしているからだ」
「・・・そんな、馬鹿な・・・事が・・・。兵器を買い漁る上層部?国民は放って置いて?そんな事、」
「初めて聞きました?”かな?知らなかったでしょ?そんな情報なんて流れてこないでしょ?
だから、それがお馬鹿な報道機関が流した嘘八百の既成事実”なんだよ
あくまでも我がお国の人々の平和を保つ為だけの、報道」
「少ない情報だけではソレに頼るしかないからな。盲目も同然、知らなくても当然。
平和ボケもいい所だ。全て我等兵士に押し付けて・・・」
突き刺したスコップを引き抜き、また雪をかきはじめる。
「・・・随分話がずれたが、政府軍に取り込まれた革命軍だって元は
その政府軍を潰さんと確固たる意思を持っていたはずだ。
それがまたどうして政府軍に寝返っていったのか・・・」
「よっぽどいい条件を出したのかなあ。三食昼寝付きとか」
ざく、ざく、と降り積もってきた雪を除ける。
「三食昼寝付きか」
「悪くは無いな」
**********後書き
ぐあ・・・!また説明パートかよ!!
とお叱りを受けそうです。頑張れ、伏線回収。