彼の口から放たれるは、


くしゃみ。


じりりりりん!









じりじりとが極卒に近付いていく。
その顔は何か焦っているような、切羽詰った顔で。

三佐っ・・・・大人しくしてくださいね・・・

イヤだな

ふん、と軽く笑って極卒が彼女を軽くあしらう。
・・・ずびずびと鼻をすすりながら。

駄目ですっ!今すぐ私と一緒に来て、薬を飲んで寝てくださいっ」

「別に寝込むほどの症状じゃないだろうが〜

それにこのボクがちょくちょく何回も寝込んで居る訳にはいかない」

「じゃ、じゃあこの薬だけでも飲んでくださいっ

わたわた焦りながら「熱喉風邪に良く利く!」とか書いてある小さな箱と、コップを差し出す。
にまにま笑いながら見下す極卒に、一言。

「・・・お願いします

「よしよし、そうかそうか。よ〜く分かった。

仕方ない飲んでやるとするか。可愛い部下の頼みだからなあ

ハハハ、と大げさに肩を竦めながらコップと箱を受け取る。
くぅー!は心底悔しがった。

「(我慢するのよ!風邪をひかれちゃ困るわ!!)」

ぽんぽんと肩を叩かれ振り向くと、ぬっと受話器が差し出される。

「え?」

「あはあ、お取り込み中悪いけどお髭の一佐がお呼びだよ〜」

、ですか?」

「うん、そうみたい」

黒電話(何処から取り出したんだろう)の受話器を受け取り、耳に押し当てると、

ぷーっぷーっ

「・・・・・・切れてますが

あれあれえ?おっかしいな?」










「やあ・・・入りたまえ君」

「失礼いたします」

随分と久しぶりにこの部屋に入った気がする。
机の前の椅子に腰掛けながらは思った。

「今日は耳栓を外していらっしゃるのですね」

「ん?・・・あー、・・・・私も変わっていかねばと思ってね

ごほごほん、と咳混じりに一佐が呟いた。

「変わっていく、?」

「君を見ていたらそんな気分になってね」

それはともかく、と話を切り替える。

「君に、今までのことを報告してもらおうと此処に来てもらったわけだ」

「報告、ですか」

「その通りだ。・・・あの男共には、とてもじゃない・・・が聞く事が出来なくてね」

じんわりと脂汗が顔に滲み、苦笑しながら一佐は耳に栓をきつく詰めた。

・・・すまない

大丈夫です

渡された鉛筆でさらさらとその文字を綴ってから、
彼女は長い文章を書き始めた。





「・・・・む・・・、なるほど・・・」

立派なヒゲを撫でながら一佐はその紙に目を走らせる。

「そうかそうか・・・大体は知っていたがこんな事まであったとはな・・・

や、実に大変だったのだね。君」

・・・ええ、まあ」

ぽそりと小さく呟き苦い笑みでは一佐に返事を返す。
すっかり顔色も良くなった一佐がすぽんと耳栓を外した。

「此処に君を呼び出したのにはもう一つ理由があってね」

「はい」

「君は・・・隣国の内戦状況がどんなものか知っているかね?」

椅子からぎぎぎっと立ち上がり、一佐は後ろ手を組んだ。
その表情は真剣そのもので。

「二つある革命軍と・・・政府軍で長年にわたって小さな戦いを何回も行っています。

・・・最近はそれが激化してきているみたいですが」

「うむ、まあその通りだ」

ヒゲをなでながら一佐は部屋の窓に向かって歩いていく。
雪がしんしんと降っていた。

「・・・昨日、形勢が変わっていたと、情報が入った」

「・・・?」

「先ほど、君は二つある革命軍”と言ったね・・・」

「はい」

それが、一つになっていたのだ

え?

窓に背を向け一佐がの方を向く。
その顔には長年軍人として勤めていた彼の、風格があった。

「・・・二つある革命軍の一つが政府側に寝返っていたのだよ」

寝返った・・・?

「そう、しかも昨日たまたまそれが、どういった訳か分からないがボロが出て明るみになっただけで、

革命軍は随分前から一つだけだったようだ」

「・・・!?じゃあ、今までの二つの革命軍と政府軍との戦いは・・・」

一つの革命軍と、偽りの革命軍、そしてそれに絡んだ政府軍との・・・戦いだったと言う訳だ

・・・偽りの・・・

こくり、と一回だけ頷き一佐は話を続ける。

「君の報告と重ねてみると昨日だけでとんでもない事がいくつも起きている」

ゆっくりと手を出し、彼は数え始める。

ひとつ、基地内での拳銃紛失の発覚、ふたつ、兵士の殺害、そしてみっつ、革命軍の寝返り



いくらなんでも可笑しいとは、思わないかね?



ゆっくりと数えていた手を戻し、一佐は言葉を続ける。

・・・ご、極卒と獄卒”に伝えておいてくれ給え

あいつ等は・・・正直好かんが、コレはお国を揺るがす事になりかねない」

「はい・・・分かりました」

「あー・・・不甲斐ないな、私も。君のような人に頼ってしまうとは・・・」


情け無さそうに一佐が微笑んだ。

とてもとても、哀しい顔だった。










**********後書き
どうやって伏線を拾っていくか考え中(待て
途中で幾つかまるで無かったかのようにしていくかもです。伏線。