ころころと人が変わったみたいに、

貴方は、一体

何処に居 る の で す か ?










がちゃりとドアを開ければソファにゆったりと座った酷卒が目に入る。

「やあ、今度こそおかえり」

「・・・うん」

雨に少し濡れた極卒はそのまま自分の机に向かい、立派なその椅子に座った。

「・・・三佐、きちんと濡れたのを乾かさないと・・・」

近寄ろうとすれば、すっとタオルを酷卒が差し出す。

「君が拭いてあげて?」

「・・・はい」

白いタオルを受け取り、極卒に歩み寄る。
青白い頬をタオルで撫でると極卒が真っ黒な瞳でこっちを見上げた。

「別に大丈夫だ」

「駄目です。風邪をひいてしまうかもしれないでしょう。三佐」

「・・・わかった」

こてん、とタオルに頭を預け目を瞑る。
は、滴る雫をふき取るように優しくタオルを動かす。

なんだか、小さな子供・・・を拭いてやっているみたいで、
胸が、くすぐられている様な、複雑な気分になる。


・・・とても・・・




「・・・あ、はい」

「服も着替えたほうがいい?少し濡れてるんだが・・・」

くい、と自分の服を引っ張りながら極卒が問う。

「え、えと・・・じゃあ着替えを」

持ってきます、と言おうとすれば、横からすうっと黒い軍服が差し出される。

はい、きーがえ

「・・・随分用意がいいんだな」

くい、と肩をすくめ酷卒が笑う。

可愛い弟の面倒を見るのはおにーさんの役目だろう〜?

「・・・え?今、なんて

聞き返すの手から極卒がタオルを引ったくり鞭のようにしならせ酷卒を引っ叩いた。

「あうあう!やめてよ〜、地味に痛い!!

うるさい〜っ!!何がおにーさんだ!馬鹿言うんじゃないっ!!」

「え〜?どこからどう見てもボク達って兄弟だよね〜

ね?そう思わない〜?ちゃん」

「あ、あのてっきり双子かなあとか思ってました・・・

双子だって!?

「あはあ、兄弟より酷いねえアハハ

げたげた笑う酷卒の横でべしべしとタオルをぶん回す極卒。
見た目はそっくりだし(髪の色は全然違うが)、確かに言われてみれば

似たもの兄弟・・・(変人と言う部類の中で)

何か言ったか、・・・?

ゴゴゴ、と音がせんばかりの禍々しいオーラを放ちながら極卒がこっちをじろりと睨む。

「い、いいえ。何でもありません極卒三佐」

「フン、全く馬鹿馬鹿しい事を言って〜・・・」

ブツブツと呟きながら濡れた上着を脱ぐ極卒。
下は真っ白なカッターシャツと、ズボンを吊るすサスペンダー。

「三佐、下のシャツは大丈夫ですか?」

「あ〜?まあ大丈夫だろう。ほら、全然濡れてない」

くいくいとシャツを引っ張りながら極卒が振り向き、酷卒から上着を受け取った。
上着を着ている極卒を見ながらがぽつりと呟く。

・・・いつもの三佐だ

「ん?」

にこ、と微笑んでが言葉を返した。

なんでもないです










「ありゃ〜、結構本格的に降ってきてるねえ」

立派な机の後ろにあるこれまた立派で大きな出窓から酷卒は外を見る。
ぽつり、ぽつりぐらいしか降っていなかった雨はいつの間にか大粒の豪雨となっていて。

「川が氾濫しなきゃいいんだけどね〜」

手元の書類を暇そうに見ていた極卒が言葉を続けた。

「川が、ですか」

「そお、死体が流れてくるよ?」

振り向きもせず愉快そうに彼は答える。

「・・・亡命者の」

「うん。あ、でも今はそれも流れてこないか」

え?

訝しそうにが聞き返す。

「だってさ、今は亡命者さん達は政府の軍人さんに拷問に・・・」

何故それを

しまったあ、なんてわざとらしく口を押さえ酷卒が振り向いた。

「うん?何でってそりゃあ君と亡命者さん達のお話を聞いていたからで」

「盗聴器で、ですか」

「う、うん〜」

返事を返す酷卒の目は椅子に座っている極卒に向けられて。
そわそわと遊ばせていた両手はしっかりと極卒を指差していて。

「三佐・・・が盗聴器を仕掛けて?」

「そうだ」

あっけらかんと答える極卒はのんびりと爪の手入れなんかしていて。

「なんでそういう事言って下さらないんですか」

「言わない方が自然に聞きだせるだろう

お前みたいなのをワンクッションに置くと後の事情聴取が楽になるからな」

なんつう理不尽な理由か。でも言い返せないのはちょっと道理が通っているからで。

「・・・・・・っ」

「さて〜・・・馬鹿げた話はまた後にして、狗。

今日の演説の準備をするぞ」

ぐい、と不意に首を引っ張られる。
慌てて自分の首元を見れば、お久しぶりのあの鎖がじゃらりと光っていて。

・・・!何時の間にっ

さあ?何時の間にだろうな〜?


にまにまと笑いを浮かべる極卒はとてもとても大きな、私の生涯に立ち塞がる壁に見えた。


あなたはいったいなんなんですかっ?










**********後書き
壁は越えられないとまあそんなオチです。
ころころ態度が変わる極卒君に困惑気味。
形勢逆転とでも言っときます。んでもって15話の言葉はここの話に続くわけですね。