おきたくない。













ひんやりとした空気に起こされた。
重いまぶたをこじ開けると、知らない天井。

・・・あ、あ〜・・・そうだったっけ・・・・・・」

たしか昨日は極卒三佐、酷卒二佐と寝たんだった・・・じゃなくて一緒に、寝たんだった。

自分の両脇をふと見てみればぬくもりもなにも残っていない空っぽの布団。
温かいのは自分だけ。

「・・・・・・あれっ・・・?」

ベッドから降りると素足が朝の凛とした空気に怯えて震えた。

「さむっ・・・」

ごしごしと足をこすりながら靴下とブーツを履いた。
すっくと立ち上がり、大きく腕を動かし深呼吸。

「・・・さて・・・どうするか」










「あれ・・・?何処に来ちゃったのかな・・・」

誰も居ない廊下にこつうんこつうんとブーツの音が響く。

「何で誰も居ないのかな・・・ここ・・・」

たとえ早朝であっても当番のものが起きている筈なのに。
なのにここには誰も居なくて。

廊下の窓をきゅきゅ、と擦り外を見てみればなんだか見覚えさえない景色。

「・・・あれー・・・?

迷子?と最悪の想像をすれば、

ばさばさばさばさ・・・

鳩が飛び立っていった。

「う、わっ・・・鳩だ」

飛び立っていった元を窓を開け覗き込んでみれば、

グーテンモルゲン!我が狗よ、昨日は良く眠れたかね?」

三佐!こんな所にいらしたんですか?」

ぐ、と窓のふちに足をかけ外へ飛び出した。

「おやおや・・・随分お転婆な事をするんだな

「べ、別にいいじゃないですかっ・・・ドアも見当たらないですし・・・」

それもそうだな、と言い極卒は踵を返した。

「ついてき給え、いいものを見せてやろう」





目の前には白い、それなりに立派な・・・

「鳩小屋・・・ですか?これ」

「うむ、その通りだ!どうだ!なんかすごいだろ〜

きゃっきゃと子供のように喜んでいる極卒。
彼がばっと手を振ると、

ばさばさばさばさばさあああ

わ、わあ!!!?三佐っ

空を舞っていた大量の鳩たちが極卒の元へ飛んできた。
頭、上げられた腕、手の先、身体に捕まれなかったものは地面へ。

「どうだ、すごいだろお」

す・・・ごいですね」

満足げににんまりと笑うと腕を挙げたままその場をくるりと一回転した。
その回転にあわせるように再び鳩たちは空へ飛んでいく。

ぱらぱらと、彼らの羽が舞い落ちてきた。

「全く可愛いやつらだな〜」

「三佐が・・・あの鳩たちを飼ってらっしゃるんですか?」

後ろ手を組んで空を見上げていた極卒が笑いながら振り向いた。

「ああ、そうだよ。凄いだろう。世界一の伝書鳩たちだ

「伝書鳩・・・」

「なあ、ボクはね〜。鳩が大好きなんだ!」

「鳩が」

「そう!鳩!ああなんて健気で美しい生き物なんだらう!!

感極まった極卒は腕を大きく広げ、落ちた鳩の羽にゆっくりと倒れた。
地面の上で手足を縮こませ、ふるふると小刻みに震える。

「ご・・・極卒三佐?大丈夫ですか?」

「うん、別に」

ぐる、と地面に向けていた顔をのほうへ向け、覗き込む彼女に手を差し出した。

「起き上がらせてくれ」

「はい、三佐」

ぎゅ、とその白い手を握ると音も立てずに彼は起き上がった。

ありがとう、

えっ?

「ん?なんて顔してるんだ、阿呆みたいになってる

さっさと中に戻るぞ〜、ほら

ぐい、と繋いだままの手を引っ張りずんずん歩いていく。
引っ張られている本人は、まだぽかんとしていて。

「・・・全くこう寒いとたまらんな〜・・・」

呟く上司の言葉も耳に入らずに、
彼女は、なんともいえない気分になっていて。


ありがとう


単純な言葉なのになんて重いのだろう

握られた手をそっと握り返して彼女は言った。

「本当に、寒いですね・・・」





握ったその手に、僅かな温かさを感じながら。










**********後書き
・・・なんだらうこの甘くさい雰囲気は!!
うちの極卒君は阿呆のように鳩が好きです。鳩馬鹿。
とりあえず褒められて嬉しいさん。
でも油断しちゃいけません、なんてったってあの三佐ですから。