決して自分の役目を忘れたわけではありません。

このわたくし、衛生兵でございます。














水道で暫くの間極卒の両手を冷やす。
火傷は見た目よりは酷く無さそうで、

「・・・ふう、これなら軟膏でも塗って置けばすぐに直りますね・・・」

「・・・・・・・・・・そう、か」

ぼんやりと極卒が答えた。
・・・いくらなんでもおかしすぎる。
これがあの、あの極悪非道、ていうか外道サドっ気満載の三佐か。

「・・・朝から・・・その調子ですが、

・・・はっ、もしやどこか調子が悪いんですか?」

とんでもない、そんな事に気づかないなんて衛生兵失格である。最低だ。

「・・・三佐、三・・・佐?」

ふら、と艶やかな黒髪を光らせての肩に重みがかかった。

「・・・・・・寝るぞ・・・・・・ボクは・・・」

「・・・・・・はっ・・・?」

予想以上の重みにふら付きながらも彼を抱き支え、ちらりと後ろを向いた。

「・・・ど・・・うすれば・・・いいんでしょ・・・うか」

「あはー・・・うーん・・・とりあえず彼の布団に運んだ方がいいかな、かな・・・?」










彼のあの花柄布団は元の部屋から繋がった書斎のような場所にあった。
前の時はぼんやりしていた所為か書斎につれてこられた事さえもよく覚えていなくて。
改めて自分は何してるんだと思った。

「さんさー・・・三佐・・・?布団・・・」

その布団・・・を見て改めて絶句。前に来た時こんな感じだったかしら?
立派なダブルベッドのマットレスの上にわざわざ敷布団。
その上に唯一見覚えのある花柄布団。
更にその上に散乱している、色あせた沢山の絵本たち。

うわわ〜・・・こりゃ夜通しやったんだな・・・

ぼそりと酷卒が呟き、布団の上の絵本をベッド脇に下ろし、スペースを空けた。

「よっこい、しょおっと」

ぼさ、と軽い音を立て布団に極卒が沈んだ。
ずぶずぶ・・・沈む。

「さ、三佐・・・?ま さか死ん・・・じゃったん、じゃ」

死んだ〜?まっさかあ〜?

まあ・・・寝不足で死んだも同然みたいになってるだけだと思うけど」

寝不足?
が一瞬眉を顰めた。彼は余りそういうタイプには、見えない。

「そういうタイプには見えないって顔だね?ボクもそう思うんだけど

実際そうなんだからしょうがない」

・・・悪かったな〜・・・

地を這うような声が俯けに沈んだ彼から聞こえる。

さっ三佐!!良かった〜・・・ご無事で・・・」

う〜・・・うるさいな・・・静かにしてくれ、狗」

ごろり、と仰向けに転がり深呼吸をした。息を吐くたびに極卒の身体は少し沈む。
そしてぎょろ、と彼女を見て

・・・おなかすいた・・・

「・・・それでは、パンか何か持ってきます。

・・・ですが、昨日・・・お食べになりませんでしたよね?空腹なのは当然かと・・・

「あーのーとーきーは空いてなかったんだ!!

今は空いてるの!!

ばたばたと手足をばたつかせ子供のように駄々をこねる。

「・・・只今持って参ります、ね」

はあ、と大きくため息をついた。
元の調子に戻って(?)嬉しいやら、哀しいやら。










「・・・何だコレ、痛いな」

起き上がり自らの両手を見ながら極卒は言った。

「あれれ〜?覚えてない?

自分であっつううううういいやかん素手で持ってたんだよお。それ火傷ね」

「・・・・・・?いや、覚えてない な・・・。何も・・・」

「そお」

椅子の背もたれに寄りかかり ふふ、と酷卒が笑った。

気色悪い

「うわ、なあにそれ!酷い!


「すっかり元気みたいじゃないですか」

かちゃかちゃと食器を軽くならしながらが帰ってきた。
彼女の持つ盆の上には、シチューとパンが3きれ。

「すみません、中々すぐに用意が出来るものとなるとシチューしかなくて・・・」

「別に構わない」

かちゃん、と小さな机の上に盆を置き、前を見ると

あーん、と口をあけている我が上司の姿が。

・・・・・・ご自分で食べてください

コレは命令だ、狗。ボクは火傷で手が動かせないんでね」

「・・・仰せのままに

スプーンでシチューをすくいそおっと彼の口に持っていく。
が、開けた口を閉じ、た。

「・・・食べないのですか?」

「狗、ボクは猫舌なんでね。冷ましてくれ」

は、とあっけに取られてちらりと横目で酷卒のほうを見る。

「ああ〜、いいないいな。

それってさ、ふぅ〜(はあと)”って事・・・」

ずぱん!!

子気味良い音を立てて酷卒の頭が撃沈した。
極卒の手には絵本、・・・かちかち山

阿呆か貴様は

「え〜?だってそういう事なんじゃないのかい?」

ふう、と息を吐く声が聞こえて二人は振り返った。

「大体冷めましたよ、三佐。

はい、口をあけてください」

・・・う、うん」

ああん、と口を開けてスプーンの上のシチューを食べる。
もぐ、もぐ どこか釈然としない顔で咀嚼する極卒に彼が声をかけた。

「・・・なあんか一本取られたって感じかい?」

っ・・・ごっ!!!

鈍い音がして再び酷卒の頭が沈む。
かちかち山の・・・角で。

っていうか本を手で持ってるじゃないですか極卒三佐

「うるひゃいぞ、狗」










**********後書き
変わっていこうとする事は大事なのです。
それを実践中さん。
だんだんペースを崩してきているごくそつ達。
はてさてどーなるやら(知るか)