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辞
める?
否
、それは逃げる事だ。軍人の恥である。
・・・・・・それでは、私は本心を隠そう。逃げはしない、
ただ怯えるだけ。
は
と
む
ね
せ
ん
そ
う
ご
っ
こ
「・・・陸の孤島・・・か」
しゅしゅしゅ、と小さく音を出すやかんを見ながらぽつりと呟いた。
そっとそれに手をかざす。ほわわ、と微かに手のひらが温かくなるのを感じた。
「・・・で、
何時になったら離れてくださるんですか
。二佐」
「
飽きたら。
まあ、飽きないけどね!!あはは!
」
先ほどからがっちりと抱きついたままの酷卒は背中に頬を摺り寄せた。
はあ、と小さくため息をつき横目で彼を見る。
彼、極卒は首さえまともな方向に向かせているもの、何処か上の空で。
そもそも、どうしてやかんに水入れて沸かせてるかって言うと
「
狗、茶
」
というまあとても短い一言によってそうさせている訳であって。
「・・・はあ」
「ん?つぐみ、幸せ逃げちゃうよ~?」
「
・・・・・・もう逃げてる気がしますが
」
ぼそりと呟いてやかんをかけていた暖炉から離れる。
「おっとと、急に動かないでよ。何処行くの~?お茶は?」
「・・・・・・薪が無くなってしまいましたので。取ってこようかと。
っていうかそんな言うなら離れてください
」
「
い~やだね
」
「
・・・・・・・・・・もう勝手にしてください・・・
」
ぱたん、と静かにドアを閉め二人は出て行く。
極卒は、何も言わなかった。
「
で、何処に薪があるかって知ってるの君
」
「・・・・・・・・・・・・・・・知りませんでし、た・・・」
不覚、何という事だ。
がっくりとうな垂れるつぐみの頭を酷卒が軽く撫でた。
「ていうか、
ボクも知らないんだけどね~
」
「
・・・それは流石に問題があるかと・・・
」
「まあ他の奴等に聞けばいい話~♪
おっとそこの君。丁度いい所にいるじゃないか!!」
たまたま廊下を歩いていた兵士に酷卒は声をかけた。
服の色は黒。
彼らの下僕である。
「
はっ!
何か御用でしょうか二佐殿!!
」
よどみのない動きで敬礼、踵をかつんと鳴らし彼は直立した。
もう拍手ものである。
素晴らしい。
「部屋の暖炉に使う薪がなくなっちゃったんだよね~
だから、さあ」
「
薪を貯蔵している部屋を教えてくれませんか
」
持ってきてくれない~?と続く言葉を遮ったのはつぐみ。
「
へっ?
つぐみ?」
「
上につく者、そういう事ぐらい知っておかないと駄目です。
案内してくださいませんか?」
「は・・・はあ」
ぽかんとしている酷卒を振り払い、つぐみはかつかつとその兵士について歩いていく。
「
あ、あーん!!ちょっと待ってよお~!!
」
ここですよ、と案内してくれた兵士にぺこりと一礼をし部屋の中に入った。
その部屋は何か乾いた木独特のにおいがして、そして
「
・・・狭い・・・
」
「いやあ、狭いねえ。んでもって」
どべっ がらんがらんがら
「
・・・・・・暗いねえ
」
お約束と言わんばかりにつぐみが薪につまづいてこけた。
「だ~いじょうぶかい?」
すっと手を出す酷卒の姿が、昨日のものとだぶる。
血まみれだった、その
手
。
「・・・・・・・・・
だ
、いじょうぶです。有難うございます」
ぱし、と冷たく白い手を取ればそれに似合わない力で引き上げられる。
「・・・結構力持ちなんですね、片手なのに」
「んん?こう見えてもボクだって軍人だしね~
人の頭かち割れるぐらいには鍛えてあるよ
」
少々
聞き捨てならない台詞
が聞こえた・・・が、ここまでの修羅場を潜り抜けたつぐみだ。
先ほど動揺した体制をたて直し、
その問題発言を華麗に放置した。
何故なら、
ここで受け答えすると余計に面倒だからである。
「さっさと薪を持っていってしまいましょう
三佐も寒がってるかもしれませんし(そんな訳無いだろうけど)」
「え~もう戻るの?
彼より僕の心の方が寒がってると思うな!
」
「
行きましょうか
」
腕いっぱいに薪を抱えて部屋を出て行くつぐみ。
待ってよう、とやはりいっぱいの薪を持った酷卒が後ろを付いていく。
彼の扱いに、つぐみも随分慣れたようだ。
「
っ・・・
何をしているんですかっ!!!!
」
がらんがらがら、から
部屋に戻って目に入ったのは熱いやかんを素手で持った、極卒。
何を思ったのか持っているのは取っ手ではなく、すすぎ口と本体。
腕いっぱいの薪を投げ捨て、つぐみは彼の傍に駆け寄った。
「
早くソレを放してください!!火傷になってしまいますっ!!!
」
取っ手を持って極卒の手からやかんを奪い取った。
彼の手は真っ赤に腫れていて痛々しい。
「・・・・・・・・・・ん?」
「ん、じゃないです!こ、酷卒さんっ、冷たい水を持ってきてくださいませんか」
「
あいあい、マム!
お安い御用さ~
」
がらんと薪を床に置き部屋に備え付けの水道へ酷卒が走る。
少ししてばしゃばしゃと水をあちこちに撒き散らしながらバケツいっぱいの水を持ってきた。
「と、とりあえず冷やさなきゃ・・・」
ポケットからハンカチを出しバケツに突っ込み患部を冷やす。
「
う
」
「
い、痛いですかっ!?
流水で冷やさなきゃ、
え、えとえと
」
ぽす
肩に軽い重み、振り向けば酷卒。
「あのね~、つぐみちゃん。
落 ち 着 い て。
ね?
」
ふ、っと肩の力が抜けた気がした。
「ん~
落ち着いた?
」
「・・・
はいっ
」
にこ、と軽く笑い彼に言う。
「とりあえず、流水で冷やします。
だから、行きましょう?極卒三佐」
こくり、と極卒が頷いた。
**********後書き
相変わらず我等が三佐の様子がおかしいですが
次の話ぐらいでその訳を明かせたらいいなあと思います。