上官に連れられ大広間へ向かう。

時は丑三つ、草木も眠る。












「こんな遅くなのに・・・」

ぼそりとが呟いた。周りにはどこかそわそわとしているたくさんの兵士達。
皆漆黒の軍服に身を包んでいる。そんな中、

「・・・私だけ、緑・・・ですね・・・」

え?ああ、そうだね」

人のよさそうな返事を返す上官もどこか上の空だ。
一体何が始まるのだろうか。
目の前に広がる、黒、黒黒黒。

(もっと早く来ればもっと前の方で見れるとか言ってたけど・・・)

眠い目をこじ開けながらぼんやりと考えていると辺りの雰囲気が急に変わった。
緊張しているような、期待をしているような妙な雰囲気の中、
ぱちぱちと拍手が聞こえ始める。最初は穏やかに、あっという間に豪雨のように。

マイクで増幅された声がソレを止めさせた。

やあ〜、諸君。ありがとう


「!」

声を聴いた瞬間、背中にいやなものが走り、あの言葉が脳裏に蘇る。


夜にまた会いましょう、





演説が、始まった。










・・・であるからして!我々は鉄と血によってこの問題を・・・

は、気が気ではなかった。
大音量で聞こえてくる演説の内容も全く頭に入らない。

じっと、見られている気がする。

それも、すぐ、すぐ近くで。


ずっと下に向けていた顔をちら、と上げる。
遥か彼方の壇上で彼は熱弁をふるっている。

見えるわけが無いのだ。

何回も自分に言い聞かせる。恐れる事など何も無い。
ソレなのに、


何故じっとりとした視線が後ろから突き刺さるのだろうか


・・・今こそ立て!軍人よ!!お国の為に死ね!!!


兵士達の歓声と拍手の中、私はその場を立ち去ったのだ。










うっ・・・、っは・・・はあ」

医務室に逃げるように帰ったが額の汗を拭った。
ぐったりと床に崩れ落ちる。ぽたた、と汗が垂れた。


おつかれさま〜


「・・・・・・・・・・え?」

事態が飲み込めない。
ゆっくりと、頭を上げていく。警鐘が耳の奥で響く。

「でも途中で出て行っちゃうなんて酷いよ」

「・・・思想が合わないのに演説を聴いている理由なんて無いと思いますが」

あくまでも平然とした様子で返事を返す。
先ほどまで演説をしていたはずの、彼。月の光で逆光に照らされている。

「なるほどね、そういう考え方もあるかな〜」

顎に手を当てううむ、と考えるような格好。
逆光なのでよく見えない。見えないほうがいいのかも知れないが。

「でも彼としてはきっと最後まで聞いて欲しかったと思うケド」

「・・・?何の、・・・話ですか」

まるで他人の事を話すような口調。

「君とじっくりと話し合いたい、って言ってたんだよ〜彼」


「君のことが凄く気に入ったみたいでね」

ゲラゲラと突然笑い出す。

しぃんじられないな!ひょひょひょひょ!!信じられない!!

あっけにとられるの襟元といきなり掴んで引き寄せる。

うわっ

なんでかな?なんでかな?なんでかな〜??

白い指がの顔を包んだ。ひやりとした。

「や、っやめてください

ゆっくり、にんまりと笑い、の耳元で優しく囁く。


やめてあげようか





意識が、遠のき、暗転










**********あとがき
ゆ、夢って呼べるのかこれ…!!