「驚いた、新入りがまさか女の子だなんて」

こんな言葉は慣れっこの私なのだ












「今度からお世話になります、上官殿」

「いや、まあそんな堅苦しくならずに、ええと」

です、と申します」

ぺこりとお辞儀して案内に来た上官を見る。
じろじろと物珍しそうに私を見る上官。これも慣れっこだ。

「やはり女の兵士は珍しいですか」

「いやー、はっきり言っちゃうと珍しいねえ

この基地に女の子が来るなんて夢にも思わなかったよ」

そんなのももう慣れっこだ





上官に連れられ基地内を進むとあちこちでざわめきが起きた。

「いやー、すまんな君。 ・・・全く学生じゃああるまいし・・・」

「いいえ、慣れてますから」

そんな事より、とが言葉を続けた。

「此処の基地の規定の制服は緑色だと、お聞きしましたが」

好奇の目で見つめてくる兵士達の着ている軍服はどれも黒、黒、黒。
の目の前で案内する上官でさえ黒い軍服を着ている。

「ああ、その事か。いやー、君もそのうちきっと着たくなるよ」

「・・・はあ・・・そうですか」

「まあソレより此処の基地について簡単に説明しようか。

ここ、「賽の河基地」は一応軍事基地となっているが隣国の亡命者の受け入れや

刑務所的な役割も担っている。・・・まあなんと言うかなんでもありな基地だ」

「はい」

「此処での君、君の役割は・・・」

説明を続けながら歩く長官の足が止まった。
古びたドアには擦れて半分見えなくなっている文字で
医務室”と書かれている。

「此処でこの基地のいっそうの発展のために勤労してもらう」

小声で呟いた上官の顔は心なしか青ざめ歪んでいた。





「・・・しかしなんでまた医務室・・・」

ごそごそと自分が持ってきた荷物を整理しながらはぼやいた。
見渡せば誰も居ない医務室。
いくらなんでもおかしい。此処は一応軍事基地なんだから軍医の代わりに他の衛生兵がいたっていいはずだ。

「・・・何か裏があるのかしら」

埃っぽいベッドを整えていると、


知りたいか?


ひっ、とが小さく悲鳴を上げた。
一瞬心臓が止まった気さえした。
真後ろから全く知らない声。

知りたいのか・・・?新入り

・・・・・・っい・・・!!

冷たい手が首をつつつ、と撫でた。

「知りたいのか、と聞いているんだ・・・ナァ新入りよ・・・」

「っあ、貴方は誰ですかっ!!

空回りな回答、しばしの沈黙が部屋の異様な空気を包む。
首元を撫でたあの冷たい手が不意にの首を掴んだ。

うけけけけけけけけ!!近年稀に見る阿呆だな!!!

うっ

首根っこを捕まれたまま無理やり振り向かされる。
目の前には、白い顔。

「っ!!」

「おやおや・・・そんなに驚かないでくれ給へ。お嬢さん」

にんまりと大きく口を歪ませて目の前の人物は言う。
病的なほどに白い肌に、相反した黒の軍服。

「は、離して下さい。貴方一体誰なんですか」

「まあお嬢さん。そんなにカリカリしないでくださいよお〜」

すっかり舐められたような口調が癪に障る。
ぱん!と首を掴んでいた手を叩いて払った。

「お嬢さんなんてやめてください。私はこれでもれっきとした軍人です」

「軍人? あ あー・・・そういえばボクの服と同じようなものを着てますねえ 

緑だけど」

今頃気づいたかのように(わざとに違いないとは思った)大げさなリアクションを彼はとった。
じっと訝しそうな目で睨んでいるに気づき、

「あーあー、悪ふざけが過ぎました〜?すまないね・・・歓迎するよ新入りさん」

さっと手を出してきた。

「え?」

サァ、握手だ。新入りさん!どうせすぐくたばっちまうんだろうから

短い間だけでも仲良くしようじゃあないですか〜」

「なっ、ど、どういう意味ですか。ふざけるのはやめて下さい!」

出された手を掴み、そのまま部屋のドアまで彼を引っ張った。
乱暴にドアを開け、すっと外に向かって手を差し出す。

「出てってください。貴方が誰だか知りませんがこんな酷い侮辱を受けたのは初めてです!

侮辱?侮辱だって?うひゃひゃ!面白い奴だなァ貴様!!」

腹を抱えて笑いながらも、素直に部屋から彼は出た。
さっさと締め出してしまおうとドアに手をかけたにぼそりと一言、





夜にまた会いましょう、





「え」

バタン!と勢い余ったドアが乱暴に閉まる。

「ちょ・・・待ってください!

慌てて聞きなおそうとドアを開けると、誰もそこには居なかった。


「う、うそでしょう・・・そんなすぐ移動できるわけ・・・」

混乱すれば脳裏に蘇る不気味な声。





「また会いましょう」







「・・・・・・っ・・・な、なんなの・・・よ・・・!!」

ぞくりと背中に走るものを祓うかのように首を大きく振った。

彼女の首には、まだあの冷たい感触が残っていた。










**********後書き
すげえ口調安定してない極卒君(笑)
ころころ口調を変える変な人にしたいのでこのまんまです。
ちなみに「阿呆」はあほじゃあなくてあほうですよ。