奇妙な団欒





「余りがっつくと咽ますよ陛下」

あらあら食べかすも付いてるし、と彼女はがつがつと飯を喰らう陛下の頬を長い袖で拭った。

うまいゾイ!

「そ、そいつは良かった」

あはは、と軽く笑いつつも自らの座っている椅子をずずりと私の方へ寄せる。

「(メタナイト卿〜・・・なんとかなりませんか〜?)」

顔を寄せ、眉根まで困ったように寄せながらぼそぼそと彼女は囁いた。

無理だな

ひでえ、と小さく彼女が毒づいたが本当の事だ、仕方ない。
何よりも今は陛下が上機嫌なのだ。寧ろチャンスと思わねば。

その旨を彼女に伝えると、そうですか・・・と先ほどよりも更に小さく呟いた。
ばぐばぐと呑まれていく彼女の昼食(になる筈だったもの)

その哀れな姿を見ながら彼女はしゅんと口を閉ざした。
小さな手をそっと握り返してやる。手袋越しでも温かかった。

「(・・・この生き物は生きている)」










「中々美味かったゾイ、褒めて遣わしてやるゾイ!

「へへえ、ありがたき幸せでございます」

びくびくと恐る恐る返事を返す
うんうん、と至極上機嫌な陛下。しーはーなんて爪楊枝で歯をこしこしやってたりする。

「それじゃあ腹もいっぱいになったしさっさと失礼するゾイ〜」

「・・・・・・」

がはははは、とかどすどすとかバタン!とかとりあえずまあ喧しい音を立ててデデデは出て行った。
そのあまりのあっさりさに思わず焦りつつもほっとする。

「ほ、本当にチャンスだったあ〜・・・まさかこんなにあっさり出て行ってくださるとは・・・」

でも・・・とはしゅんとしている。
作り置きが出来るからとカワサキの店の大鍋で作ったそれ、煮込みうどん。
それを鍋に入れて図書室へ彼女は持ってきていた。勿論今日の昼食、果ては夕食の分だった訳で。
簡易コンロでことことと煮込んでいた所やってきたのが暴虐大王なのである。
うどんの匂いに釣られてやってきた彼に最早デデデが天敵と化しているは成すすべも無く。

「ああ、空っぽ・・・ちえ、」

がらんどうになった鍋を恨めしそうには見つめる。

「何か違うものでも食べれば良いだろう」

「簡単に言いますね、卿」

気持ち不機嫌にそう言いながら仕方ねえ、と何かを用意し始める。

「そう言うんなら、」

ぐい、と手に持ったそれをは突き出す。

手伝って下さるんですよね

びよんびよん、と竿がしなる。
もうこんな事慣れてしまった。















「・・・釣れない

あーあ、と彼女は天を仰いだ。
忌々しいほど良い天気である。が、絶好の釣り日和とは限らない。
昼食のための釣りを開始して一時間が過ぎようとしていた。
こんな時の時間と言うものはやたらと長く感じるものである。
すっかり飽きモードになってしまった彼女は自身の巣から持ってきていた本を片手に竿を弄んでいた。

腹が減って本に集中する力も無いのか、ぱらぱらとページをめくり流し読み、

「うー・・・」

と一声鳴いた。


「忍耐が足りないぞ、

「そうは仰いますが卿、貴方だってそんな木陰で涼んでいては説得力がありませんわ」

「・・・・・・」

皮肉交じりにそう言った彼女は帽子を取り、ぶかぶかの袖を捲くった。
本で器用に竿を挟み、帽子を枕として川辺の草原にごろんと横になる。

「・・・あー・・・もうどうにでもなーれっ

ポーズとも相まってとてもどうでも良い様に見える。


少しもしないうちに寝息が平和な川原に静かに響き、

ゆっくり、ゆっくりと時間が流れていく。




竿は、その後もびくともしなかった。















「卿・・・何してらっしゃるんですか・・・

ぐったりとくたびれた様子で彼の部下二人は力無く呟いた。
時は夕刻間近、大分彼らは卿探しに奔走していたようである。

「・・・見ての通りだ

随分とぶっきら棒に言ったメタナイト。彼の座る傍らにはぐうぐうと気持ち良さそうにイビキをかいているの姿があった。
タイミングを読んだかのようにむにゃ、と一声呟いてごろんと寝返りをうつ。

「・・・随分まあ気持ち良さそうに寝てますね」

はあ、と深い溜息を吐き、肩を落とす部下二人。
それはそうと、とブレイドが言った。

「何やら村の子供達の一部で妙な遊びが流行っているようで・・・」

「妙な遊び?」

ティンクル様”とか言う遊びらしいんですが・・・」

「所謂狐狗狸さん”みたいなものらしいです」

放っておいても大丈夫でしょうか?と従者二人は言った。
その質問に少し黙って、主は返事をする。

「暫く様子を見よう。まずはそれからだ」

淡々と語った彼の眼は夕日で橙に煌く。
沈む夕日は何か不吉なものを暗示するかのように異様な大きさに見えた。




















「狐狗狸さんと同じようなものって事は、テーブルターニング、」

「って奴ですね?」

鍋の中に引っ付いたご飯粒を一粒残らず取ろうと彼女は躍起になりつつ、そう言った。
今晩は雑炊ご飯である。理由は、

「我々もご馳走になってしまって・・・」

「いやあ凄い美味しかった」

・・・部下二人がくっ付いているからだ。雑炊は少ないお米でも上げ底出来る。
つまりは少ない量でも満足できる飯、と言うわけである。

「・・・又陛下の悪い遊びでなければ良いのだが・・・」

「子供っていうのはそういうオカルトなものにはまるモンですよ。

多分そのうちに飽きるんじゃないですか?」

それにしてもどっちにしても性質の悪い遊びですねえ、と鍋に夢中な、心此処にあらず。
だが返事はきちんと返す。

「性質の悪い・・・ってどんな所がだ?」

「そりゃあやっぱりどんなに単純で簡単だと言いましても、

テーブルターニングは交霊術ですから。遊びにしては凶悪すぎる。

興味を持ったとしてもやるべきではありませんねえ」

もぐ、としゃもじに引っ付けたご飯粒を齧りながらは言葉を続ける。

「そのティンクル様”の手順を知る必要があると思いますよ」

「手順で悪質かどうかを調べるのか・・・」

食後のお茶のおかわりを貰いながらソードが言った。ほくほくの緑茶だ。だが中身の味は薄い。
出がらしがなくなるまで使っているのだ仕方ない。

「余りに本格的なものだったら無理やりでも止めさせた方が良いですね。

きっとあの陛下の悪霊魔獣とかそんな感じの仕込みですよ」

「・・・ああ、確かに」

「陛下だったら」

「・・・やりかねんな」

はあ、と三剣士がそれぞれ思い思いの溜息を吐いた。
そんな様子を見ながら、
この人達苦労してそうだけどもなんで職を変えないんだろうとぼんやりは思った。





お給料とかなんぼ貰ってるんですか?

「・・・何の話だ










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今晩は、とか言っているあたり卿の図書館への通い率が分かります。
オリジナル魔獣とかやってみたかった。頑張る。