姑、と言うより





「たまには一緒に食べれば良いのに・・・」

「・・・・・・」

盆に載った一人分の食事、とプラスアルファをは彼に渡した。
プラスアルファとは、

「部下のお二人も誘ってくれば良いのに・・・」

「・・・それは駄目だ」

・・・その彼らの分だったりして。ちなみにおにぎりである。二個で一セット。
呆れたように見つめるのが一名。フームだ。

「貰うだけ貰って何処で食べるのよ?」

「・・・・・・」

彼女の辛らつな言葉にすたすたと何処か早足で去っていく仮面の騎士。
盆を持ったその姿はどう見てもまぬけであったがそこには誰も突っ込んでやらない。

「・・・いつもああなの?」

「いつもああですねえ」

「一緒に食べれば良いのにね〜」

もぐもぐと焼き魚を突っつきつつも誰も追わないあたり食事の力と言うか、


ただめんどくさいだけともいうか。















「ねえ〜・・・そのちゃん?」

「ん〜・・・なんですかねカワサキー」

食後のお茶をずずずと啜りながら口を開いたのはカワサキ。
同じくお茶でまったりとしながら返事を返したのは
名前で呼び合う仲に何時の間になってたんだろうか、なんて少し頭に邪念が走る。

「前々から言おうと思ってたんだけどさあ〜・・・

ちゃん、この星に来た時に働き口探してたでしょ〜?

・・・その、あ〜、あの、良かったら、俺の店で働かない〜・・・?

「・・・」

「・・・な、なあんて〜。あは、あはははは〜」

えへらえへらと笑いながら照れくさそうに彼は頭をかいた。
聡明な彼女と、笑い上戸の店主に挟まれた図書室の小さな虫は一度だけ目を瞬かせる。

「それはそれは・・・随分とありがたいお言葉なのですけれども」

「な、なのですけれども〜・・・・・・?」

駄・目、と一言語尾に何か桃に似た記号でも付きそうなほど奇妙な言い方で彼女は断った。

「今は図書室に引き篭もる本の虫ですからね。あの場所はもう私の場所です。

それに調理場に蔓延る虫なんて油虫だけで十分じゃあありませんか?・・・なんて」

気持ちだけ受け取っておきますね、と彼女は笑った。
(良かった・・・)とほっと一息つくのは聡明な彼女だったりする。ああ、何処かであの仮面も聞いているのかもしれないが。

同じように彼も一息ついたのか?それは分からない。

所で油虫って何〜?















「そして誰も居なくなっている」

「まあそりゃあそうでしょ」

図書室はがらんどうだった。もう早朝からも時間が過ぎてそこそこ経っている。
きっと二人はフームの両親の所へ食事をしに戻ったのだろう。

「それじゃあ今日も憂鬱な本の整理の仕事に入りますかね」

「手伝ってあげましょうか?司書の虫さん」

「本の虫ですよ」

「知ってるってば、もう。私も行っちゃうけど頑張ってね」

ふふふ、とフームは笑ってドアの方へと歩いていく。
ええ、頑張りますよっと、と自分の半身ほどもありそうな本を持ち上げた。

よっこいせえなんてちょっと年寄り臭い掛け声で彼女は本を司書の机に載せた。
ぎいぎいなんて机がきしむ音、もう慣れっこである。

「あ、そうだ

「あれ?まだ居たんですか」



おかえりなさい



パタン、とドアの閉まる音。
ばさばさばさばさ・・・と紙の束が落ちる音。
ぽかん、という彼女の口が開きっぱなしの音・・・・・・はしないが。


「った、ただいま・・・」


ややあって、はそう答えたのである。










昼十二時前。大体20分ぐらい前。

今日の来訪者二名。残念な事に利用者では、無い。
ノックの音が静かな図書室へ響く。

「どうぞ、図書室はノック無しに入っても構いませんよ」

「失礼する」

そう言って入ってきたのはメタナイトを主とする剣士二人。ソードと、ブレイド。

・・・卿を見なかったか?」

「さっきから探してるんだが見つからないんだ。何処へ行ってしまったのか・・・」

「えー・・・さあ・・・。私はずっとここで仕事をしていましたからねえ・・・。

それよりも本、借りていきませんか?いやあ何分利用者数0を誇っているもので」

「スマン、今は卿を探すのが先なんだ」

「本を借りるのだったらもっと時間のある時にするよ

・・・ん?なんか良い匂いが・・・」

「丁度お昼を温めてた所なんですがご一緒にどうです?」

う・・・と至極まあ残念そうに呻く声が聞こえた。
何かをためらうかのように言葉にならない声がひそひそと聞こえ、そして返事が。

「す・・・すまない、・・・卿を探すのが先決だから・・・!!!

ぱたん、と気持ち早めにドアは閉まった。

「それは残念・・・ですねえ?」

「・・・・・・そうだな」

ぬっと机の下から現れた仮面の騎士。
やれやれだぜ、とは呆れたように頭をかいた。

「なあんで隠れるんですかー。仕事なさい仕事ー、星の戦士でしょ」

「・・・・・・」

沈黙を守ったままのメタナイトには溜息をついた。

「まあ匿ってしまう私もいけないんですがねー・・・」

「・・・その通りだな」

ぽすぽすと背丈の低い彼女の頭を軽く撫でる。頭の帽子が少し深く沈む。

「私、子供”じゃないですよ?」

「・・・・・・ああ、知っているとも」

ちら、と視線だけが帽子の下から彼を貫いた。





ぼおん、と図書室の何処かにある時計の鐘の音。
もうこんな時間か、と誰とも無く呟き、そしてまた沈黙が図書室を支配した。










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仕事なさい、卿。