懐郷





彼女は悲しそうな目でフームを見つめる。
暫くの沈黙の後、重い口を開いた。

「・・・まずは、私の旅の目的から

・・・、・・・・・・。・・・いや、やっぱり止めておきましょう

この事については何時か、・・・何時かと言う事で」

「・・・・・・」

彼女はあえて何も言わないでおいた。
いいわ、続けて。と静かにを促す。

「・・・ありがとう

・・・とりあえず貴女に知って欲しい事

私達本の虫がどうして絶滅したか、を知って欲しいんです」



「貴方達が生まれる前・・・気の遠くなる程前ですね。

・・・我々は宇宙の星のそこかしこに居たものです

大体はその星の大きな図書館なんかに長く長く住み着いて生き字引なんかになっていました」

「・・・ナイトメアがその遠い昔に宇宙を我が物にしようと動き始めたのは知ってますよね?」

「貴女が思われた通り、私達はその魔の手の被害にあったわけです。

・・・いや、正確にはあってない・・・か」

どういう事?

本の虫 悪い噂流された

とても酷い噂 本の虫を住まわせてた星の住民 大変怒った

本の虫達皆捕まえられた


「・・・その害虫駆除”で我々はあっという間に数を減らしていった訳で・・・

・・・ソレはともかく、私はその生き残り、です多分。ナイトメアが何時又駆除に乗り出すか分からない。

・・・貴女方の迷惑になってしまうかもしれません」

そこまで話しては再び哀しそうな顔をした。


「・・・此処までの話で、私が貴方達の生活に害をなす存在の虫だとお考えになったら

・・・遠慮なく言ってください。私は即刻この星から出て行きます」

何故?

酷く真っ直ぐな瞳がを見つめていた。

「・・・何故、そんな大事な事を私に託すの?」

「・・・貴女はとても冷静に物事を考える事が出来る人だ

悪いものにも屈しないとても心の強い人・・・だからこそ聞きたいんです

私が、この星に居てもいいのかと」

悲しい顔のまま彼女は微笑んだ。
それはまるで覚悟している、そんなような顔で。

きっと、今までもそうやって断られてきたのだろう。今だってそうだ。
言わなければ、隠し続ければ済む事なのに、彼女はそうはしない。


「・・・私は、」


私達は貴方を拒んだりはしないわ

驚いたように目を見開いて彼女は顔を上げた。


「此処で私が貴方がここに居る事を拒んだら、・・・それはナイトメアにも屈した事になるわ。

私は、そんなの嫌。折角出来た友達を失った上に悪にまで屈してしまうなんて」

「そんなの、嫌よ。 嫌、じゃない。許されない事だわ

ぎゅう、と彼女の温もりを抱きとめる。
小さな身体がびくりと揺れて、落ち着いた。


「・・・・・・ありがとう


朝焼けに二人の影が伸びる。
肌寒かった霧もすっかり影を潜めていた。















「カブー、朝からすみませんでした」

カブー 気にしてない 困った事あったら いつでも来ると良い

「ありがと、カブー」

それじゃあ、と言って少女二人は村への道を一緒に歩んでいく。
すっかり日が昇ってしまいましたね、と彼女は笑う。

「もうあの二人も起きてる頃じゃないでしょうか」

「どうかしら?起こす人が居ないからまだずっと夢の中よ

・・・ねえ、

ん?とぱちくりと瞬きをしながらは顔を向けた。

「あんまり、気に病まないでね。私、いつでも相談に乗るから!」

「・・・ありがとう」

うっすらと頬を染めながら彼女は目を細めて笑った。
それにつられてフームも笑う。

「あ、そういえば私もう一つ寄る所があるんですけれどもー・・・」

え?

「・・・少し時間掛かるかもしれないので先に帰っていても良いですよ?」

「? 一緒に行くわ」

え、ええ良いですけど・・・と少ししどろもどろになりながらは歩いていく。
そんな彼女の行動にはてなマークを浮かべながらフームは付いていった。










「ここって・・・」

「おはようございまーす、失礼しますよー」

「あっ、待ってたんだよ〜ちゃん〜」

店の奥からへらへらと人が良いんだかそれともバカなのか、とにかく満面の笑み・・・というより若干鼻の下が伸びた笑いを浮かべながら、とにかく店の奥から店主カワサキがやってきた。説明長いな

「・・・どゆこと?

訝しげな顔をしながらフームがに問う。

「いやあ台所を借りさせてもらってるんですよ」

「食材と調理場を貸す代わりに朝ごはん作ってもらっちゃってるんだ〜」

うへへへと照れた様に店主は笑う。何故だ。

「今日はフームも居ますから四人分ですねえ」

「?? なんで四人」

それは

不意に後ろから聞こえた声。

「・・・私も居るからだ」

振り向いてみれば予想通りの人物である。
仮面の騎士メタナイトがいつの間にか佇んでいた。

「うわびっくりした」

「メタナイト卿、ほんとよびっくりした・・・!

・・・で、何で貴方も居るの?

あ、私が説明しますよ。と返事をしたのは

「えーと・・・少し前でしたかね?私がカブーの所へ朝行って、

そしたらその帰りに偶然卿と会いまして。それから卿も私達朝ごはん友達の仲間です!

「偶然・・・ね。・・・で朝ごはん友達って?」

ちゃんからお願いされちゃったから朝だけ調理場と食材を貸してるんだよ〜

その代わり俺の分も作ってもらってるんだ〜」

へえ・・・ととりあえず納得したフームが一言、

「・・・ってメタナイト卿なにもしてないじゃな「、今日の朝食は何だ?

へ?といきなり話を振られた、じとーっとした視線で仮面野郎を見るフーム。
我関せずな仮面野郎。にこにこ顔の店主。
なんとも混沌とした状況である。


「え、えーと・・・まあそうですね。和食でしっとりと決めましょうか。


和食党が一人居ますし


はは、と苦笑いをしながら彼女は割烹着なんか着込んでいた。
腕まくりをして、その手首には輪ゴムがあったりして。なんとも懐かしい光景で。

それじゃあ調理場借りますねーっと言いながら奥へと消えていく。
残されたのはテーブルを囲んで三人。

偶然、ねえ。本当にそうなのかしら。この前の事もあるし・・・どうなのよメタナイト卿」

・・・・・・

「あ〜今日は和食かあ〜。ちゃんの料理俺のより美味しいんだよねえ〜」

・・・料理人としてその発言はいかがなものだろうか、そんな事を思う雰囲気の悪い二人。
ふわ、と味噌汁の匂いがもう漂ってきたりして。

「・・・・・・」(良い匂いに思わずおなかが減った)

「・・・・・・」(まだだろうかと待っている)

「・・・・・・」(料理している所を想像して悦に浸っている)

結局は、誰も食欲には敵わないのである。










「ねえ

「なんでしょ?」

何か手伝える事は無いかしら?と調理場に乗り込んできたのはフーム。
自主的に家事を手伝うあたり流石女の子といった感じか。

「そうですねえ、ご飯が炊けたと思うんでお椀によそってくれませんかね」

「はいはい」

自分より随分とこじんまりしている姑さんにくすりと笑いながらも彼女は椀を手に取った。
ほかほかと鼻をくすぐる米のいい匂い。ソレを堪能しつつぴかぴかの米を盛る。

「手伝ってもらっちゃってすいません」

「いいのよ、手伝うというよりもうコレぐらいしかやる事無いみたいだし・・・」

腹の虫を抑えながら横目でフームは揃えられた朝食のラインナップを見た。
炊きたてが嬉しい白米、焼き色が鮮やかな焼き魚、わかめと豆腐の味噌汁、勿論外せないお漬物。
いかにも和食といった感じの質素でそれで居ておなかに嬉しい献立。

いいかも・・・

「何がです?」

「え、あ、いやなんでもないわ」

心に湧いたある思いをひっそりと奥底に潜めつつ彼女は白米てんこ盛りの椀を盆に置いた。

「あっ、お盆はもう一つ用意して置いてください」

「?」

「一人使う人が居るんですよ」

眉根を寄せて困ったように彼女は笑った。










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Q:なんで飯関係の話多いん?
A:大食いの彼が主人公だからしょうがない