只今、待機中





もぐもぐとは出された料理を咀嚼する。
こんな所で食べちゃ駄目だよなあ、なんてぼんやりと思いながら。





此処に虫が来なかったかゾイ!?

ばたんと荒々しく空けられるドア、飛び込んできたデデデ陛下。
突然の来客にきょとんとしている一家とピンクだま。

「これは陛下、どうなされたんですか?」

返事を返したのはパーム大臣だった。
まるで何も無いようなそんな素振りにデデデは訝しげな表情をしてのたまう。

「どうしたもこうしたもあの虫はガキんちょ共の仲間ゾイ!

ここに匿ってるのはもうまるっとお見通しだゾイ!!

びしぃっと音がしそうなほど元気よく威勢よくデデデは未だ優雅に食事中のフームを指差した。行儀悪いぞ。
彼女はそんな陛下をちらりと見て

食事中にノックもせずに入ってくる人にそんな事教える必要ないわ

と、軽くあしらった。

なんだと!?と当たり前のように陛下は激昂して、

「何処かに居るはずゾイ!」

ばたばたと部屋を物色し始めた。ソファの上のクッションをひっくり返したり戸棚の裏を見てみたり、
が、駄目っ・・・!見つからない。

「・・・見つからないゾイ!?一体何処に・・・」

「最初っから匿ってなんか居ないわよ」

夕食の時間が台無しだわ、そう言ってフームはデデデを睨む。
当の本人は納得していないようないらいらした態度で捨て台詞、

今日の所は見逃してやるゾイ!

と言ってどすどすと去っていった。



何とか大丈夫でしたね

すすすとテーブルクロスを持ち上げて机の下からがこんにちはなんてしていた。
美味しかったです、ご馳走様でした、と空になった皿を片付け始める。

「陛下にばれるかと思ってひやひやしたよ」

「身体が小さいからそんな所に入れちゃうのね」

メームが感心しながらそう言った。
彼女が隠れていた机はそんなに大きいものではなかった。ましてや一家がその机を囲んで座っていたのだ。狭い、にも関わらずすっぽりと余裕さえ持たせて入れる辺り虫の特権と言うか。

「結局のんびり出来なかったわね」

はあ、と小さく溜息をつきながらフームが残念そうに言った。
そんな姉の様子を見ながらブンが言う。

「いいじゃん、もうこの城の住人なんだし。いつでも機会はあるよねーちゃん」

「ぽよ!」

は思わぬ所で住人認定されたのが嬉しかったのか顔をほころばせて、

そうですよ!

元気よく返事をした。










ぱたん、とドアを開ければもう見慣れた顔が見えた。

・・・顔、と言うより仮面だろうか。

「あっ」

「帰ったか」

どうしてこんな所にいらっしゃるんですか、メタナイト卿、
彼女はすっかり椅子に座りくつろいでいる様子の彼に近付きながらそう聞いた。
自身も彼のあいむかいの席に座る。ぎしりと古びた椅子が鳴った。

「・・・ゆっくり話をしたいと思ってな」

「・・・め、メイド服のですか・・・?」

顔を引き攣らせつつ彼女は聞いた。
しばしの沈黙の後、





「・・・いや、違う」

「そうですか・・・」

会話は再開された。は心底ほっとしたような表情だった。

「先日、光る物体が空を飛んでいた」



「・・・お前ではないのか?」

疑問の言葉ではあったが問いかけているものではなかった。寧ろ確認を取る、そんなもので。

「え・・・あは、まさかそんな、未確認飛行物体という奴ではありませんかね?」


ははは、と軽く笑いながら返事を返すが、目が泳いでいる。
じっと沈黙を守ったまま見つめる騎士に耐えられなくなったのか、が白状した。

「・・・はい、・・・ワタクシがやったんでございます刑事さん」

「・・・・・・。この星にやってきた時の光、か?」

「えー・・・まあそんな所です」

「何故そんなにビクビクしているんだ?」

親に怒られている子供のような対応の彼女に優しく諭す様にメタナイトは聞いた。
もじもじと言い辛そうな表情だったので、言ってみなさい、と再び発言を促す。

「や、・・・その、大事になったら嫌じゃないですか」

「もっと見つからないようにすればいいのではないか?」

「それが出来たら苦労しないんですよ」

溜息混じりには呟いた。

「でも良くその光が私のせいだって分かりましたね」

「・・・」

一瞬言葉を詰まらせた後、メタナイトはその質問に答えた。

私の友人が、・・・お前とよく似た事をしていた

「・・・友人」

「遠い昔の話だ、・・・そろそろ失礼する」

ぶっきら棒に言ってすたすたと図書室を彼は出て行く、
と、

「あれっ?メタナイト卿何してんの?」

「ぽよー?」

入れ替わりに入ってきた友人達。
何故か手には寝袋と枕。

「ブン、にカービィ!どうしたんですかその荷物」

聞けば待ってましたといわんばかりにヘヘヘと彼らは笑う。


「今日は此処に泊まろうと思って!!」















「簡易お泊り会って奴ですかね」

床を簡単に片付けながら彼女はそう言った。
ばさりと彼らが持ってきた寝袋を綺麗になった床に敷く。
ぴょいんと楽しそうにピンクだまが飛び乗った。

「ねーちゃんもそのうち来るからさ!」

「噂をすればなんとやらって奴ですよ」

え?と不思議そうな顔をするブンに、はある場所を指差した。
と、

「お待たせ」

指したドアからタイミングよく現れたのはフームで。

「ねーちゃん!って、よく来るの分かったなー」

事情を知らないフームを尻目にブンは感心したりしていた。
はてなマークを浮かべつつも彼女は笑い、あるものを取り出した。

「これを探してたのよ」

「ランタン?」



やや古びたソレを囲むように皆寝袋の中に入った。
実はと言うとかなり室内は暗い。窓はあるが入ってくる明かりは微々たるもので。
古びた机の上にはやはり年代物の燭台、ブンの手には懐中電灯。

「消して良いわよ」

彼女のその言葉を聞いて二人は火と灯りを消した。
暗闇の中にひときわ明るく光る暖かな灯。

「あかるーい」

「でしょ?それにしてもこの部屋にもきちんとした照明が必要ね」

「そこまでこだわらなくても〜・・・」

うつ伏せになりながらは苦笑する。
自分の些細な事にこんなにも目をかけてくれるフームの気遣いは嬉しかったが、
本当に些細な事にまで首を突っ込んでくれるので少しは遠慮して欲しいというか、何と言うべきか。

「どうせ夜の図書室になんて誰も来やしませんよ」

「でもさっきメタナイト卿来てたじゃん」

弟君の空気読めない発言にフームは訝しそうな顔をする。
ああ、なんてこったい、とはがっくり肩を落とした。

「ちょ、ちょっとした話をしてただけですよ」

「どんな?」

うう、とは言葉に詰まった。言うべきか、言うべきなのか。
言うべきなんだろうな・・・と純真な子供達三人の目には耐えられずには重い口を開いた。

「この星にやってきたときの事を聞かれてたんです」

ふぅーん・・・

へぇ・・・

ぽよ・・・

素っ気無い返事を返すがその目には好奇心が満ち溢れていた。
言わずとも分かる次の質問。

「・・・どうやってやってきたか、の話なんですが・・・」

教えてくれるのか!?

ぱあっと表情を輝かせて返事をされた。ああ、やっぱり期待されていたのか。
苦笑いしながらは子供達に話を始めた。



「トンネルを抜けたら、そこは知らない星でした、って奴ですよ」

意味が分からないわ

まるで用意されていたかのような綺麗な返事には酷いとショックを受けた。

「だって本当の事なんですもん、トンネルを抜けると知らない星へ出るんですよ」

「トンネルってどんなトンネル?」

無邪気な質問がブンの口から出てくる。余談だがトンネルトンネル打ってたらトンネルがトンネルに見えなくなってきた。所謂ゲシュタルト崩壊である。トンネルトンネル。

「んー・・・そうですね、・・・」



「・・・例えば、貴方が部屋に入り込んできたちっぽけな羽虫を潰そうと考える




一息ついて、が言葉を続けた。

「貴方は羽虫を目で追う、・・・が途中で何故か羽虫を見失ってしまう

確かに目できちんと追っていたはずなのに、見失う

「ソレと同じ原理です」

「・・・?見失うって言ってもその場から居なくなったわけじゃないでしょう?」

はてなマークを浮かべながらフームはそう言った。
語りかけられたはうっすらと、どこか気味の悪い笑みを浮かべながら、返事を返す。


「・・・はたして、そうでしょうか?

羽虫は本当に貴女の視界から消えただけでしょうか?


・・・貴方達は知らないだけです。この世界には虫の穴ワームホールが沢山開いているのです」


「ワームホール・・・」



「じゃ、じゃあはそこを通ってこの星にまでやってきた、って訳か!?」

の言葉に呆気に取られる、と言うか呆然としていたフームははっとした。
隣ではしゃぎながら問うブン。冒険好きな子供心を刺激する内容だったのだろう。
自分の意図通りの反応を見せるブンとカービィにはにまりと笑う。

まあそういう事なんですねえ

「・・・信じられないわ

ぽつりとフームは言った。はその言葉さえも最早意中のものといったように、


「無理やりでも信じてくださいよ。

私は確かにその虫の穴を通って来て、こうして貴女の目の前に居るんですから


そう言って笑った。
頭上には満天の星空が降り注ぐ。

彼女の笑みに、くらくらと目眩がした。










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文章の中に明らかにおかしい点があります、どこでしょう。