皮肉もいいところ





魔獣を倒した喜びもつかの間、図書室との終わり無き格闘が始まった。

いっそ殺して・・・

ぼそりと彼女は呟いた。日もまた彼女の言葉に答えるかのように傾き始める。
時は情に流される事もなくただいつもと同じ鼓動を刻みながら進んでいく。無常なのだ。

、元気出してよ・・・」

すっかりやつれてしまった彼女にフームが言葉をかけた。
彼女もと同じように疲れていた。手には古びた本。

「もう今日はコレぐらいにしよーぜー・・・」

どさりと紙の束をゴミ袋に入れながらブンが提案した。
そうね・・・とやはり力なく彼の姉フームは返事を返しその手に持っていた本を、ゴミ袋に、

あっ

え?

がさりと本が入れられた、そこまでは視認できた。



バアン!!!



次の瞬間、ゴミ袋は図書室の扉にぶち当たっていた。
正しくはゴミ袋だったもの、である。哀れゴミ袋と中のゴミはぶつかった衝撃で周囲にふわふわと舞っていた。
そして目に入る扉にくっついたままの、本。

あー・・・

やれやれだぜ、と溜息をつきながらは頭をぽりぽりとかく。
何が起こったのかわからず呆然とする姉弟。
一方カービィは轟音に気づきのそりと起きていた(今まで寝ていたのは赤ん坊だからしょうがない)

「なっ・・・何が起こったのよ・・・」

しばしの沈黙の後フームが小さく呟いた。
ずるずると本にしてはありえない動きで扉をずるずると滑り落ちる。

正直言って不気味以外の何者でもない。


「ゴミ袋に、入れたでしょう」

「え?」

あれをですよ、と言ってが指すのは扉にへばりついた、そう

飛行力学入門”」

べしゃりと床に落ちた本はそのまま、浮いた。

おいで、と小さくが呟くと彼女の小さな手に本は浮いたままやってくる。
二度言おう、本が、飛んできたのだ。

「「・・・・・・・」」

「プライドの高い本ですから最近の酷い扱いに耐えられなくなったんですね」

よしよし、と本の背表紙を撫でる
言葉を発したのは、今度はブンだった。

「・・・す、

すっげーっ!!!ねーちゃん、本が飛んだ!!!

どうなってんだ!?と子供らしい無邪気な好奇心をむき出しにしてブンとカービィはに近寄る。
フームだけが未だ目の前で起きた光景を信じられずにいた。


「なあなあ、どうなってんだそれ!?」

「ぽよ、ぽよ!」

「この本は、」


ふふ、と軽く笑いは言葉を続けた。

魔法の本なんですよ















「魔法だなんて、・・・信じられないわ」

適当にその場を片し、輪になって彼らは一旦休憩していた。
肘を付きながらどうにも納得がいかないといった顔でフームは上記の言葉を発した。

「だって本当なんですもん」

「なんですもんって・・・じゃあどういう原理で飛んでるの?」

ふよふよと手の上(言葉通りの意味)で本を弄ぶにフームは聞いた。
目の前で本が浮遊していたとしても一概に信じられない辺り学問を尊ぶ彼女らしいというか。

「原理といわれてもー・・・理屈なんて通用しませんよ、魔術書なんですから」

「魔術書・・・?」

聞きなれない単語にそれぞれ首を傾げた。

「魔術書っていうのは大体怪しげな呪文やらなんやらが書いてあったり

著者の怨念やら呪いやらがかかってるアレな本ですよ。

普通は禁書だとか危険だとか言われて燃やされちゃったり封印されてるんですけども」

この本はそんな理不尽な迫害を逃れてこの世に残っている貴重な本なんです、とは言う。

「・・・でもその本は飛行力学入門”書なんだろ?何で飛べるんだ?」

「飛ぶ事について書いてあるから飛べるんじゃないですかね?」

そんないい加減な、と言ってフームは苦笑いをした。

「世の中にはわかんないこともいっぱいあるんですよ。

・・・きっとこの図書室にも探せばありますよ、禁書

そう言っては図書室を見渡した。
まともな照明が無い所為か、奥に行けば行くほど暗がりになり、向こう側の壁が見えない。

飲み込まれそうな暗黒にぶるりとブンが一回震えた。

「何か薄ら寒くなってきたぜ」

「ぽよー・・・」

眉根を寄せながらカービィが頼りなく呟く。
ぐうう、と間の抜けた腹の虫の声が図書室に響いた。

「カービィったらお腹空いちゃったのね

今日はもう遅いし、一旦終わりにしましょう」

「そうですね。魔獣にぐちゃぐちゃにされた所、今日だけで結構綺麗になりましたし」

「また明日だな」

、一緒に夕飯食べない?」

いいんですか!?とフームの提案にが喰い付いた。

「デデデに見つからなきゃ大丈夫よ!」

「それじゃあ少ししたらすぐ行きますっ」

嬉しそうにぱたぱたと服や帽子の埃を払うに思わずフームも笑う。

「それじゃあ先に行って待ってるわね!」

「見つからないように気をつけてなーっ」

「ぽよー!」


閉まるドアを嬉々とした表情で彼女は見ていた。
夕飯を沢山の人と食べるなんて、一体どれぐらいぶりなのだろう。

胸に湧き上がる温かいものに顔をほころばせつつ、彼女は支度を始めた。










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何かやたら夕方近辺の話になってる気がするぜ。