天和 平和 地和





図書室の住み込みの生活が始まってから数日は経っただろうか。
はと言うと特に何事もなく平和に過ごしているのだった。
どうやら陛下は魔獣遊びに夢中らしい。彼女にとっての平和であるが、よろしくない。





ずずん、と軽い地響きの音がした。地響きがする事事態軽くは無いのだが最早日常茶飯事だ。

「またか」

図書室の主になったはもうすっかりと我がもの顔で図書館を闊歩する。
と言っても滅多に利用者は居ないので誰も迷惑はしない。
寂しいので偉そうに闊歩していた。虚しい。

「懲りない人だなあ」

ずず、と片手に持っていたカップの中の紅茶を啜りながら彼女は目的の棚へ付いた。
数日経った今でも何だか異様にでかく感じる図書室の中は未だ散らかった部分が多い。
片付けても片付けても片付いた気がしない。
棚を片せば奥から無尽蔵に本が出てくる・・・そんな気さえした。

「私にとっては悪い事じゃないがなあ」

それでもこんなに散らかってちゃ片付けばっかで読む時間が無くなっちまう。

「どうしたもんやら・・・」

ぽりぽりと頭を帽子の上からかいているとぱらぱらと砂埃が降ってきた。



上を向いてみれば実にタイミングよく天井板が一枚落ちてくる。
べちん!と彼女の顔に直撃した無残な音が図書室に響く。

「いてて・・・な、なにこれ・・・?」

痛む顔をさすって再び上を向いてみれば、





暗転。










さて、目の前にはなんだか得体の知れない魔獣。
立ち上がるは砂埃、魔獣の後ろには逃走経路、私の後ろには愛すべき本棚。

どうする?

「ってそんな事思っても誰も答えてくれるわけでもなし・・・」

どうするべきか、と思わず頭を悩ませる。
天井、というか床か?を突き破り図書室へ落ちてきた魔獣は思いも寄らぬ場所への召喚に多少戸惑っているようだった。きょろきょろと周りを見渡している。
落ちてきたところをとっさに避けられたのは最早奇跡に近かった。一歩間違えば潰れていた。

それはともかく、チャンスは今である。

何がというのは勿論逃げるチャンスだ。様子が読み込めない奴は今隙だらけだ。

・・・逃げるなら今のうち・・・!!!

ぎろりとこちらを睨まれた気がした。そうですか、やっぱり簡単には通してくださらない。
巨大な腕が空間を薙ぐ音がした、ついで身体に激痛が走る。

「うげっ」

バチン

と明らかに尋常ではありえないような音を立てては壁に叩きつけられた。
ずるりと何かで濡れ汚れた壁から彼女は落ちる。死んだのか、いや、

ひいひいとくぐもった呼吸がの口から零れた。
壁にひびが入るような悲惨な衝撃だったにも関わらず彼女はまだ生きていた。

「ひっ・・・い・・・いたた・・・」

それどころか彼女は立ち上がろうとしていた。そんな光景に魔獣さえ思わず目を見開く。

う?

頭上が暗くなるのを感じ、彼女は上目でそれを確認した。
















「カービィ!急いでっ!!」

一方こちらは魔獣を追っかける側である。
順調に戦っていたはいいものの、床が抜けるというまさかの事態に彼らは慌てていた。

「ぽよっ!!」

全速力で彼らは廊下を駆けていく。
最後尾でフームとカービィを追っかけていたブンは息を荒げながら一言呟いた。

わざわざ廊下で下の階に行くよりも開いた穴から落ちれば良かったんじゃねえの!?

あ!!





「カービィ早く行って!!」

元の部屋に戻ってきたフームはカービィにそう言った。
ぽよっ!と気合が入ってるんだか入ってないんだか良く分からない威勢のいい返事をした後、
ぴょいんとファンシーな音をさせながらカービィは下の階へ落ちて行く。

穴から覗いた下の階はまさに地獄絵図であった。

ちぎれた本のページやらが紙吹雪の様に待っている。
その中心地に魔獣はいた。自身の怪力を見せ付けるが如く腕を振り回し本棚を打ち壊していく。

「ぽよ!!」

ぴぷっと軽い音を立てカービィはその魔獣の後ろに着地した。
新たな獲物に気づいたのか魔獣は振り向き不敵な笑みを見せる。

「ねーちゃん、あそこって図書室だよな?」

「そういえば・・・」

、無事なの!?と彼女は叫んだ。
だがその叫びは対峙するカービィと魔獣の横で虚しく響くだけ。
の姿は全く見えない。どうか無事でいて、と彼女は小さく祈るように呟いた。

ぽよーっ!!

先に動いたのはカービィだった。いつの間にか召喚されていたワープスターに飛び乗り魔獣を翻弄する。魔獣のほうも流石に体が大きいだけあってその動きは鈍い。
奴の攻撃はすんでの所でカービィにかわされていく。

カービィーッ吸い込みよ!!!

彼女の言葉を皮切りにカービィは吸い込みを始めた。
ごおお、とそれこそ轟音を立てながらあらゆる物が彼の口の中に納められていく。
紙吹雪も、そして崩れた瓦礫も。


はあっ!!!


高く飛び上がったカービィは飛び上がった時とは全く違う姿で魔獣の上に落ちてきた。
ずずん、と軽い地震並みの振動が城に響く。

ストーンカービィだ!!!

ブンが飛び跳ねながら嬉々として叫んだ。
やっとの事で受止める魔獣にめりめりとめり込んでいく姿はまさに岩。
ぐら、と魔獣の足元が揺れ床に沈んでいく。

「見て、ブンあれ・・・!」

彼女の指差す先には魔獣の顔(にあたる部分)が。
見てみれば真赤になって蒸気さえ吹き出ている。

「やった!オーバーヒートおこしてるんだ!いいぞーカービィ!!」

彼の言葉を聞いてかどうかは知らないがこれでとどめと言わんばかりにカービィは更に自身の質量を上げていく。原理は知らない。
重くなっていくカービィに負けじと魔獣が腕を上げた瞬間、

ばぎん、

ずずんと鈍い音がした。砂埃の中から現れたのは地面にめり込むカービィと魔獣の腕。
負けず嫌いが祟ったのか、奴の腕は引き千切れた。

!!!!?!!?

蒸気とオイル、そして千切れたコードやプラグを振り回し魔獣は困惑していた。まさか自分がこんな屈辱的な目に遭うとは思っても見なかったのである。人(?)生最初で最期の敗北だ。
がくんと膝を落とした魔獣はそのままその場で爆発した。原理は知らない。多分オイルになんか引火でもしたのだろう。










めらめらと燃えていく魔獣(だったもの)を消火しながらフームは言った。

ーっ!何処なのーっ!?居たら返事してーっ!!!

予想以上に広い図書室に虚しく彼女の声が響く。返事など無い。
幸いぶち壊されたのは図書室のほんの一部であった。それでもかなりの被害と言ってもいいだろう。
棚は滅茶苦茶に打ち壊され、本は原型の無いほどぼろぼろの紙くずになり、更にその上から破られた天井の瓦礫やら岩やらが圧し掛かる。

「ひでえ・・・」

「どうか無事で・・・巻き込まれてなければ良いんだけど・・・」

がら、と不意に背後の瓦礫の山が崩れた。

「ぽよ!!」

コピー能力を解いたカービィ、そして彼におぶさる様にしてぐったりとした、

「「!!」」

消火の道具を投げ出して子供達二人は彼と彼女に駆け寄った。

「カービィがを見つけたのね?凄いわ!!」

、大丈夫か?」

とりあえずその場に座らせるとは小さく消え入るような声で呟いた。



「・・・、」

・・・また潰された・・・

何でこうなる、と誰に言うでもなく愚痴り、その場にふて腐れる様に横たわる。
ぱち、と呆気にとられて瞬きする三人。
沈黙を破ったのはフームだった。

「・・・あ、貴方大丈夫なの?何処も怪我してない?」

「・・・この通りずたぼろです」

「あの魔獣に潰されたのか?動けるのか?」

「身体中が痛むけど動かせないほどでは・・・そりゃもうぐちゃりと」

ぽよ

ぽよー

ぽよぽよと何だかよく分からんが和み始める二人に、というかにフームは待ったをかけた。

「本当に何処も怪我してないの?大丈夫なんでしょうね!?」

な、なんで怒るの・・・私達本の虫は体が丈夫なんですよ・・・」

多少の事じゃ骨折とかしませんから、と言っては怒れるフームをなだめた。
本当に?と言ってフームは疑いながらも心配そうな顔をした。

「見た目はこんなんですけど、よっぽどの事で死んだりしないから安心してくださいって」

しかしそれにしても酷い目に遭った、と言っては瓦礫の中から本を取り出した。
彼女の小さな身体には似合わない大きさの古びたそれ、「飛行力学入門」

「こいつのお陰で助かりましたよ」

「それで?なんでだ?」

「こうやってたんです」

と言ってはその分厚い本を自身の頭上に両手で掲げた。
防具の代わりになった、と言いたいらしい。


えー

「えー、じゃない」


それよりも、と言っては悲しそうな顔をした。





整い始めた職場がこんな無残な姿に・・・





どうやら片付けはまだまだ終わりそうに無い。










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ちまちま明かされてくる本の虫の生態、そんでもって意味ありげな「飛行力学入門」
伏線は回収されそうでされない(しろ)