五里霧中 夢中
デデデ大王との話し合い(と言う名の口喧嘩に近いもの)は壮絶を極めた。
ぐちゃりと潰されたトラウマからかは怯えながらフームの背中に隠れ、
ブンはいつの間にか居なくなっているし(友達の所へ遊びに行ったらしい)カービィは床の上にもかかわらず寝だす始末だ。何処が壮絶なのか分からない。
「この国の王はわしゾイ!お前が勝手に決めるんじゃないゾイ!」
「あんたを王様だなんてこの国の誰もが思ってないわよ!」
・・・内容は長くなるので端折るが折れたのはデデデのほうだった。
捨て台詞とばかりにまともに働いていなかったら即刻クビゾイ!とは言っていたが。
「こんなんでやっていけるのかなー・・・」
は早速図書室の整理を始めていた。と言うのも何時デデデが監視に来るか分からないから一応仕事をしておいた方が良いというフームの助言があったからなのだが。
背表紙の番号シールを見ながら番号にあった棚へ本を移動させていく。
随分と長い間放置されていたのか、修繕が必要な本も多かった。
「いっぱいになっちゃったなあ・・・」
ふう、と溜息をつく彼女の視線の先には修繕待ちの本を沢山乗せた図書館用のルームワゴン。
勿論コレも長期の放置でキャスターが転がしもしないのにぎしぎしと軋んでいた。
「大変そうだな」
「ええ、そりゃあもう・・・ってびっくりしたー・・・」
どきどきと跳ねる心臓を押さえつけながら聞きなれぬ声の主へとは振り向いた。
ばさりとマントを翻しオンボロワゴンを押し運んでいく彼に、首を傾げる。
「(誰だか知らないけど親切な人だなー)すいません、手伝ってもらっちゃって」
「いや、構わない」
てきぱきと作業を進めるその彼に倣い、も慌てて作業を始めた。
一人より二人。多いほうが良いのである。
それからの作業は結構なスピードで進んでいった。尤も、全体の量が多すぎて余り実感は湧かなかったのだが。
二人はと言うと、
「紅茶しかなかったんですけれども・・・飲みます?」
「ああ、すまない」
一旦休憩をしていたのだった。
座っている椅子やテーブル(勿論悪い意味で年季物だ)の周りにはシールが張ってない本や修繕の仕様がない本などが山ほどと積まれている。
まだこんなに沢山残ってるのか・・・、溜息を咽喉の奥に押し込んで(何しろ客人の前だ)
彼女は古びた紅茶の缶を開けた。
「・・・・・・」
「・・・・・・どうした?」
何か見てはいけない物を見てしまった、そんな様な顔で彼女は紅茶の缶を凝視していた。
ずず、と開けた時よりも強く力を籠め、蓋を閉める。
「・・・中身がありませんでした、あはは」
「・・・そうか」
引き攣った笑いを浮べ、彼女はきつく封印した缶をゴミ箱へ放った。
ごとんと落ちた後、小さくカサカサとまるで何かが動くような音がした、ような気がした。
「何も出せるものが無くてすいません・・・」
「いや、別に私は構わない」
向かい合わせに座ると、彼のマントやらが埃で汚れてしまった事に気づく。
「貴方のマントも汚れてしまったし・・・本当に申し訳ない・・・ええと、」
は思わず言葉に詰まった、なんてこったい。この人の名前を知らない。
心中を察したのか目の前の彼は自ら名乗った。
「私の名前は、メタナイトだ」
彼女はぽかんと口を開けたまま絶句した。
呆けた彼女の瞳から一瞬光が消えて、再び輝き始める。
「・・・貴方が、星の戦士の生き残りの、」
「・・・ああ」
は目を見開き息苦しそうに重い溜息を吐き、椅子の背もたれに寄りかかった。
「まさかこんな所でお会いできると思いませんでしたよ・・・」
「それは私も同じだ。
・・・本の虫はナイトメアの迫害で絶滅してしまったと思っていた」
「あはは、この通り生きてますよ」
足もついてます。が茶化して笑った。
「本の虫の生き残りはそなただけなのか?」
「そなた、だなんてむず痒いから止めてくださいよ。
私の名前はです、改めまして」
「そうか」
「それでさっきの質問なんですけれども・・・私には答えようもありません。
生まれた時から独り者ですし、仲間には滅多に会えませんので」
ゆっくり首を振り虚しく笑う。
「そうか・・・」
遠い目をしたメタナイトには声をかける。
「誰か知り合いの本の虫でも居たんですか?」
「・・・いや、辛い事を聞いてしまって済まなかったな」
小さく呟きメタナイトはドアに向かって歩き始めた。
ぱたん、とドアを閉める音が微かに図書館に響く。
その背中を複雑そうな顔で見送りながらはある事に気づいた。
「メイド服・・・着たまんまだった・・・」
「ったら随分頑張るのね」
不意に後ろから掛けられた声にははっとして振り向く。
埃やらなんやらまみれの顔をカフスの付いた袖で拭った。
「もうすっかり夜よ?仕事熱心なのは良い事だけど・・・」
「ああ、フームでしたか」
「ああ、ってよっぽど夢中になってたのね・・・」
やれやれ、とフームは苦笑いをした。
「もう服がぐしゃぐしゃの埃まみれじゃない。
それに夢中になってた割には結構片付いてないみたいだけど・・・」
「それが・・・読むのについ夢中になっちゃって・・・」
「はあ・・・まあそんな所だと思ったわ」
はい、とフームはオンボロテーブルに持っていた器を置いた。
ふわりと今更ながらに漂うカレーの匂いにあっと小さく声を上げた。
「夕食を持ってきてあげたの。本当は一緒に食べられれば良いんだけど・・・
デデデの気が済むまではこっちで静かに食べる方が安全だと思って」
「いやあ・・・何から何まですみません・・・」
「そんなに気を使わなくても良いのよ。
寧ろこっちがあんな大王を見せてごめんなさいだわ」
それじゃあおやすみなさい。
小さく手を振り友人はドアを出て行った。
「・・・お友達っていいもんだなあ」
へへへ、と照れ笑いをしながらは容器にかかったラップを取った。
ほわりと更に濃厚なカレーの匂いが鼻をくすぐる。
「いただきます」
小さな感謝の呟きは図書館の闇へと溶けていった。
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一日がおわったよー。
何か意味ありげな会話は後できっちり解消したいと思います、うん。