どこかで聞いたことがある――   スニーキングミッションの基本は、ダンボールなのだ――





城内は、いやププビレッジはいや、もしかしたらプププランド全域にまで広がってるかもしれない
・・・とある話でどこも持ちきりだった。

光る巨大な物体が昨晩空を飛んでいた、と。

それが幸いしたのかもしれない。城内は勿論、その周辺の村も皆その物体がなんなのか、
もしかしたら毎度毎度騒ぎを起こしているあの陛下の仕業なのかもしれない、
それとももっと別なものなのかもしれない・・・

そんな訳で皆が集まってその物体を探しに行っていたのだった。

もちろん只今任務遂行中の彼女が知る訳でもなく。がらんどうになった城内をどきどきと緊張しながら壁伝いに忍び進んでいるのだった。

「あー薄暗いなー・・・」

かーびぃは何処に行ってしまったのだろう、と彼女はがっくりと肩を落とす。
もしかしたら今更だけれども私はあの本をあの子に掏られたのだろうか、なんて考えさえ浮んでくる。

「いや、あんな可愛い子がそんな事する訳無いよね・・・」

はあ・・・と一瞬でもあの子供を疑った事に自分を責めたくなる。
というかそれ所ではない。

「あの本に何かあったら困る・・・」

ぷるぷると頭を振り、再び歩き出す。長い長い廊下にはドアもまばらで。

「おっ」

がちゃりと開けたドアは食料庫だったりして・・・。

「うーん・・・ついついドアがあったから開けちゃったけど別に此処にあの子がいるって訳でもないし

・・・開ける必要ないよね・・・」

あはは・・・と苦笑しながらもやっぱりついつい部屋の中を物色してしまったりして。
ジャガイモやらニンジンやらがダンボールやら木箱やらに詰められていた。やらやら。

「お・・・」

そんな野菜臭い中見つけたのは空の段ボール箱・・・










お察しの通り、城内を段ボール箱が歩いていた。
がさがさと持ち手の穴から外を覗きつつ不審極まりない動きでダンボールは進む。
誰かに見られたら速攻でばれてもおかしくない状況だ。
それにも関わらず中身の彼女は実に楽しそうだった。初のスニーキングミッションに些か興奮しているらしい。

「・・・!」

調子よく進む中彼女は何かに気が付いた。

ひたひた・・・

「(足音だっ・・・)」

どきりと心臓が跳ねる。ここで見つかったらどうしよう。
お城だし、不法侵入とかで牢屋にぶち込まれるかもしれない。
もっと酷ければ処刑?

一気に熱が冷め切った彼女は急遽箱をひっくり返し中から封をした。

「(私は只の段ボール箱私は只の段ボール箱・・・!!!)」

がたり、箱が揺れる。

「ん〜?なんでげしょうコレ」

「そんなモンどうでもいいゾイ!全くとんだ無駄足だったゾイ」

「まあ普段運動不足だったから丁度いいじゃないでゲスか」

特徴的な口調からターゲットは二人居ると思われた。
のしのし、ひょこひょことなんだかどう擬音で表せばいいのか良く分からない音が段ボール箱の傍を通り過ぎる・・・。

「・・・・・・!」

「ちょっと陛下コレ放置するつもりでゲスか?」

「お前が後始末すればいいゾイ」

ずしずしずしずし・・・

「んも〜・・・全くあのオヤジは・・・」

ブツブツと言いながらゲスゲス言ってる人物は彼女が収まった箱を持ち上げ・・・

「ん?なんか結構重いのが入ってるでゲスね」

「・・・・・・!!!!!」

「何か入ってるんでゲスか?ってなんか開かないしコレ」

ぐぐぐ、と頭上の蓋をこじ開けようとする動きがあった。
ひやり、と嫌な汗が全身から噴出す。

「確か私の部屋にカッターナイフがあったような・・・」

よいしょ、と言う声と共に箱が揺れる。持ち手の部分からそっと外を覗くと
ああ、やっぱり浮いてる動いてる。



もうどうすればいいっていうの!















「結局何にも見つからなかったわね・・・」

「ちぇーっ、つまんないの」

空は段々と赤く、夕暮れへ近付いていく。
赤い日差しを浴びながら、ぱたぱたとやや疲れたかのように子供が二人石造りの廊下を歩いていた。

その進行方向からのそのそとカタツムリに似た人物が歩いてきた。
子供二人に気づくと声をかける。

「フームにブン、今頃帰ってきたんでゲスか」

「ええまあね」

「骨折り損だったぜ!」

そればっかりは同意するでゲス、とカタツムリはため息をつく。

「それはそうと、エスカルゴン、何その箱?」

彼が持っていたダンボールに、少女が気づいた。
びくっ、とかすかに箱が揺れる。訝しげに少女が首を捻る。

「廊下に置きっぱなしだったんでゲス、邪魔だからお前達にやるでゲスよーっと」

さも清々した!と言わんばかりにエスカルゴンと呼ばれたカタツムリが段ボール箱を放った。


どさっ(ぎゃっ)


「今の聞いた!?」

「・・・な、なんでゲスか!?」

「何か音がしたぜ!?」

ずざざ、と途端に三人が投げ出された箱から遠のいた。
箱は再び沈黙を守ったが、中の彼女はもう泣き出さんばかりだった。

そんな空気をぶち壊す、

「ぽよ?」

鶴の一声、いや玉の一声。
未だあの本を抱えたままのカービィがこれまたタイミングよく現れたのだった。

「カービィ!何処に行ってたの!?探してたんだから、もうっ」

「ぽよ!ぽよぅ!」

ぴょこぴょこと跳ねるカービィの手から少女が本を受け取る。
やはり彼女は訝しそうにその本を見つめ、そういえば、と箱に向き直る。

びく、と箱少女はびくついたが視線は彼女の手に渡った本に向けられていた。

「(私の本っ・・・)」

「カービィが来てうやむやになりそうだったけど・・・この箱おかしいわよね?」

「よし、開けてみようぜ!」


ちゃき、と刃物を扱う音が頭上から聞こえる。
きつく封をした天井がざくりざくりと裂かれる。

ああ、









万事休す。だ。









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メタナイフ私も欲しいぜ。