飲み込むものと突っ込むもの





地響きと共に広がる闇にマルスはその端麗な顔を歪めた。
闇の中からは大量の影虫とそこから生まれる亜空の軍勢が。

「一体どうなってるんだ・・・」

神剣ファルシオンを引き抜き、彼は砦の階段を駆け下りた。
分からないのならば、近くに行って調べるのみだ。










「めっ メタナイトッ!!

叫ぶの足元に亜空の兵士だったものがどさりと倒れ込んだ。
うえ、と小さく呟いて戦う彼に再び呼びかける。

「メタナイトっ」

「おかしいですよ此処っ」

精一杯叫び、彼女は地面にずるりと座り込んだ。
その様子を確認したメタナイトは、目の前の敵を両断した。

ざっと、彼女の傍に近寄ると周りを囲む軍勢を睨みつける。

確かに、彼女が言うとおりその場所は異様なものだった。
しっかりと剣を持ち、構えている筈なのに地に足をつけている感覚が無い。
霧の中とは全く比にならないほどの虫達が空間に飛散する。

そしてそこから無尽蔵に生まれる亜空の軍勢共。

この闇の中に突入してから随分立った気がするが奴等は少なくなった様子は見えない。
寧ろ多くなっていると言うべきか。

、脱出するぞ」

「・・・」

「おい」

どうした、と傍らに座り込む彼女に声をかければ



ずぶり、と地面から湧き出る虫が彼女の身体を食んでいた。
自分の足元を確認してみればそれは彼の靴の上に小さな塊を作っていて。

くそッ

ぐったりとした彼女の腕を引っ張り、渾身の力で彼は飛翔した。










「何なんだこれは・・・」

攻城に蔓延る雑魚共を蹴散らしたマルスはその得体の知れない形を持った闇に近付いていた。
かすかだが乾いた風の音と共に何かが蠢く音が混じったのが聞こえる。

何かが居る・・・!?

瞬間、闇の中から何か”が飛び出した。
目の前に得物が煌く。

ギィン!と高い金属音を響かせマルスはその太刀筋をファルシオンで受止め、
目の前の仮面を付けた刺客を捉える。仮面の男は何かを抱えていた。

「くっ」

酷く攻撃的なその剣をマルスは返した。
一も二も無く息の詰まるような速さでそれは振りかざされる。



速い、それも、かなり。



彼が何かを抱えていたのが幸いだっただろうか。太刀筋は単純で。
永遠に続くと思われたその剣の応酬。それは背後から近付いた第三者の手によって終止符を打たれた。

「「!!」」

二人は全く臆する事無く背後から近付いた漁夫を真っ二つにする。
いつの間にか気づかぬ間に音も無くそれらは湧いていた。

「・・・メタナイト、君もあれを?」

「・・・ああ」

それじゃあ仲間だね

いくら雑魚でもこんな数、ましてや囲まれているとあれば一時休戦だ。

「共同戦線を張ろうじゃないか」

「・・・・・・」

仮面の騎士は何も返事を返さなかった。が、否定の言葉も湧いてくる虫共と一緒に襲い掛かってくる様子も無かった。

「それじゃあ、行こうか・・・・・・!?

不意にメタナイトから何かを投げつけられる。
ぼす、と彼の手元に落ちてきたものは小さな生き物だった。

「・・・え!?な、何?」

「・・・暫く預かっていてくれ!

言うが速いかメタナイトは虫の群れに飛び込んでいく。
ばっさばっさと容赦なく斬られていく虫達を見ながらマルスは面食らっていた。

「あ、預かってろって・・・」

そんなコント紛いな事をしている間にも虫達はマルス達をじわじわと囲んでいた。
ちら、とその様子を視界に捉えたマルスはやれやれ、と小さく溜息を吐いた。

「少し手間が掛かりそうだね」




















一掃。まさにそんな言葉が良く似合う光景だった。
風に舞う虫たちの残骸。佇む剣士二人。・・・と虫一匹。

はあはあと息を荒げるにマルスが声をかけた。

「君、大丈夫かい?」

「・・・、・・・」

呼吸を落ち着かせようと、は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
少しして、だいじょうぶです。と蚊の鳴く様な小さな声が聞こえた。

「それなら良かった・・・」

立て、追うぞ」

ばさりとマントを翻し飛び立っていくメタナイト。騎士道どころか外道である

「行っちゃったか・・・さて、君はどうするんだい?」

「・・・そういう貴方は、どうされるので?」

勿論、自分の足で追うさ、と言って青年は軽く微笑んだ。

「・・・私も追います、自分の足では無いですけど」

ふう、と溜息のような小さな息を吐いてはどこからか例の飛行力学書を取り出した。
地面に軽く浮いたそれにしがみ付く。へえ、と青年が感嘆の声を上げた。

「それじゃあ追いかけないとね」

青年の言葉を皮切りにも見知った顔を追いかけ始めた。










待てっ!!!

「!」

暗雲立ち込める空をソレは飛んでいた。
ぷるぷると小さな音を立てながら浮遊する乗り物、その上に乗った人物。



逃がさないよ



小さく呟きマルスは地面に深く踏み込んだ。
ふわ・・・と彼の身体が宙に浮ぶ、太刀筋が煌いた。


「・・・!」

「っち、」


まさに紙一重だった。ファルシオンの剣先は無残にも空を斬るのみで。
焦ったように搭乗していた人物はこちらを見た。無機質な光がこちらを睨む。

「はっ!」

ばさりと羽根を翻し、マルスの背後から飛び出す、影。
その影に無機質な光が焦りを帯びた。まさに剣が奴をなぎ倒す、そんな時


チュインッ


何・・・!?

突如軽い音を立ててその光は台座から発射された。狙うは、メタナイトの羽根。
レーザーに貫かれ発火しかかったマントに、メタナイトは追撃を諦めるより他ならなかった。
ざざざ、と降り立つマルスとメタナイトにが近寄る。

追跡者も居なくなり安心した表情でその人物は再び正面に向き直った。

その背中を見ながら、マルスが愚痴る。

「全く、遅いよ」

「・・・まあそう言うな

!!!





天、空!!!!





がぎぃんと金属を叩き斬る甲高い音が荒野に響く。
バランスを失った乗り物から搭載されていた丸い、それが落ちた。

「・・・!!、!」

薄い煙を上げながらその人物は手の届かない場所へと飛んでいってしまった。
戦艦ハルバードが浮ぶ上空へと。

「くそっ」

仕留められなかった、と地面に降り立った青年は小さく呟いた。
ごつい両手剣が上空のハルバードを映し出していた。










「全く本当に何をしていたのやら・・・」

「・・・・・・・」

小さく愚痴る青年マルス、とその言葉を苦そうに聞いている少し体格のでかい剣士。
きょときょととは困ったように二人を見ていた。

「あのー・・・お知り合いで?」

「ああ、まあそんなもんかな。そういえばまだ自己紹介がまだだったよね?」

僕の名前はマルス、よろしく。そう言ってふわりとマルスは笑った。
あ、はい、とが少し照れながら返事を返す。

「わ、私の名前はです」

「メタナイトと知り合い?」

違う

即座にメタナイトが答えた。ハルバードが消えていった暗雲を未だ睨みつけたままで。

「もう知り合いでしょう卿、あ、違った」

「知り合いでもないし私は卿でもない」

訳アリ?とマルスは首を傾げた。先ほどからその隣の剣士は黙ったままである。
ええとですね、とは小さく呟いて話し始める。

信じてもらえるだろうか・・・。





時刻は早いものでもう昼過ぎをまわっていた。










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一旦切る。やっと剣士ルートの人たち登場。