何だか活力的ですね、
「卿」
「私はお前の言う卿ではない」
それはもう何回目かの同じやり取りだった。
無表情に(と言っても仮面で隠れて表情は分からないわけだが)低空飛行を続ける彼と、
その彼に話しかけては元の世界との彼を重ねてしまう彼女。
「いやあ、だってその、・・・本当にそっくりというか同一人物なので・・・」
「・・・・・・」
会話が途切れた。目標は完全に沈黙。パターン青、使徒です。
気まずい雰囲気がもわりと辺りに充満する。
どうするべきか、と挙動不審気味に視線を動かすと目を突く紅。
「うわ・・・」
目に手をかざして見れば地平線に呑まれていく真赤な夕日。
夕日を早く舞台から押し出してしまおう、そう言わんばかりに闇が辺りを急速に包んでいた。
今まで薄暗い紫の霧で良く分からなかったが、相当時間が経っているらしい。
呆然と空を見つめていた彼女は知っているけど知らないあの人がどんどん先に行ってしまっている事に初めて気付いた。
「あっ、卿、・・・じゃなかっためっ・・・メタナイトーッ!!!」
(実際には別人だったが)その名前を呼び捨てにするなど初めてだった彼女はやや焦っているというかはらはらしているというか息が荒いというか。とにかく平常心ではないのは確かで。
「・・・」
そしてそんな彼女の初めての呼びかけにも全く応じず、いやほとんどわざとと言ってもいい。
無視したまま彼はばさばさと進んでいた。心なしか早く進んでいるような気がする。
「あっ、まって、くださいっ、っよおおおぉーっ!!?」
ぐ、と勢い良く第一歩を踏み出した所為かべちりとこれまた勢い良く地面にすっ転ぶ。
最早ぐうの音も出ないほど見事なすっ転び方だった。
「どうやったらそんな転び方が出来るんだ」
「ほっといて下さいよ・・・」
放ってしまっても良いのだな、と頭上から声がした。
聞くまでも無く放って行っちゃったじゃないか、と
「・・・・・・」
「どうした、早く立て」
目前に差し出された手に少し言葉を失った。
「あ、ありがとうございます」
「・・・今日はこれ以上の探索は出来そうに無いな」
目が焦げ付きそうなほどの大きな夕日を見て、メタナイトは言った。
余りにも異様な速度で夕日は闇へと沈んでいく。
「・・・・・・」
荒れた地に長い影が二つ伸びた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
小さな火の粉が弾ける音と、何処からか聞こえる虫の声だけ。
この二人はまたもや会話を失っていた。
・・・尤も、会話を失った、と焦っていたのは彼女だけなのだが。
「火を消すぞ」
「へ?」
間の抜けた返事に全く動ずる事も無く、返事を聞く気も無く、メタナイトはばさばたと焚き火に砂をかけていった。
焚き火は多少の抵抗を見せた後、うねり、消えた。
「・・・何で消すんですか」
「寝るのに必要無いだろう」
成る程、至極ご尤もな言い分だ。
暗闇に慣れぬ目をこすっていたら、
「うわ!?」
「寒かったら羽織っていろ」
頭に被せられたそれ。ぷはあ、とそれから顔を出した。
闇にも慣れてきた目に映ったのは見覚えのある後姿。
「・・・良いんですか?」
「・・・・・・」
「貴方が寒いでしょう」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ずりずりと渡されたソレを引き摺りながらはメタナイトに近寄った。
「引き摺るな」
「それは失礼」
軽く流し、彼の真横まで移動する。
ばさあっとマントを広げ、ぴったり隣にくっ付いて包まった。
「お・・・二人入れた」
「・・・お前は」
呆れたようにふうと溜息をつき、メタナイトが空を見上げた。
その行動につられるようにも空を見た。
曇った空とは全く違う、何か禍々しいものが星空のあちこちに広がっていた。
時折ぐにゃりと形を変えるそれは、まるで意思を持った生き物のようで気持ちが悪かった。
「・・・お前は別の世界からやってきた、と言ったな」
「え、・・・はい」
はぎこちなく返事を返した。
確証は無い。だが今居る場所は明らかにププビレッジとは違うのは確かだ。
「・・・多分」
小さな声でぼそりとその言葉を付け足した。
今更だがとんでもない禁書を開いてしまったものだと後悔する。
「お前が居た世界には、私が居るのか」
「はい。・・・あとお前、じゃなくてです、改めまして」
少しの沈黙の後、そうか、とやはりぶっきら棒な答えが返ってきた。
そこらへんちょっと卿に似てるなあ、とぼんやり彼の横顔を見ながら思う。
「・・・あ、でも」
「?」
「卿はご隠居っぽいかな・・・」
「・・・」
何時寝てしまったのかは良く覚えていない。
眩しい朝日に目を擦り、うぐぐ、と伸びをして起きる。
「早く起きろ」
「寝ぼけ眼にはキツイ台詞ですね」
包まっていたマントの砂埃を払い、彼に渡す。
何も言わず受け取るメタナイトには苦笑いを浮かべた。
「行くぞ」
「行くぞってどちらへです?」
す、と指が道を示す。
空に浮ぶ禍々しい紫。飛行機雲のようなそれはじわじわと空間を汚染していた。
「ハルバードが通った道ですね?」
「ああ」
ばさりと大きな羽根を広げ、メタナイトが飛び立ち、その後ろをがついて行く。
進む目前には、紫の闇が広がっていた。
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なんだかんだ言いながら優しいメタ。