禁書ハンターの血が騒ぐ。
「おおー、あったあった!」
絶対にあると睨んでいたんだよね、と城の図書館に巣食うようになった本の虫、は喜んだ。
手には仰々しい文字で「読むべからず」と書かれた本が。
いわゆる禁書である。
「ふうーっと!うへー凄い埃」
げほげほと、どこか嬉しそうに咽ながら彼女は本を厳重に包む封印を解く。
禁書には、二つの種類がある。
一つ目は、読むことを禁止とするもの。
イデオロギー的な権威によって禁止されてしまうのだ。
そして二つ目は・・・
開く事さえ許されない禁書”である。
今まで数々の星を旅してきた彼女にとってコレを見つける事は最高のスリル・・・と言っても過言ではなかった。退屈な放浪の旅に彩を加えるスパイスといった所か。
「・・・おっと、読む前にまず保険保険」
彼女はそう言いながら必要最低限の荷物を手元に寄せる。
飛行力学入門、古びた本にはそう書かれてあった。
今までに数え切れないほどの禁書を読んできた彼女、勿論痛い目に遭った事も数知れず。
たとえば、身体が小さくなったり、筆舌に尽くしがたいエグイ描写で何日も吐き気が止まらなくなったり、高熱を出して寝込んだり・・・と。勿論原理は知らない。作者の怨念か何かであろう。
長生きで頑丈な身体を持つ本の虫にとってそれぐらいまあとりあえずどうって事無かったのだが。
「さあ、私にその中身を見せてもらおうじゃないですか禁書殿!」
「・・・・・・」
今までに数多くの禁書で痛い目に遭ってきた彼女でもこんな事は初めてだった。
「・・・・・・・・・・!!!!!」
ごおおおお、と強風が身体の横を吹き抜けていく。
足元は冷たい鉄板。まるで要塞か何かのようだ。
そして目の前には、ぞわぞわと蠢く何か小さい、例えるならば蟲のような、
「ひっ」
ぞぞぞ、と彼女の足元からそれらが身体を上ってくる。
全身の毛が逆立つのにさほど時間は要らなかった。
「や、いやだっ向こう行けっ!!」
一体此処は何処だ、何が起きた、私の身体を這いずり回るこの蟲は一体何なのだ。
数々の疑問がぐあっと押し寄せ、そして正常な思考は消えていく。
彼女は気づかなかったのだ。
「!?」
足元にぽっかりと開いたその穴に。
「・・・!!!!」
ごおお、と轟音を立て風が頬を切っていく。
身体の中に入っていた蟲達も風に飛ばされ何処かへふわふわと飛んでいく。
しかし今はそれ所ではなかった。
迫り来る地面、落ちる彼女。出る答えは一つ。
いくら身体が丈夫だという本の虫でも流石にコレは無理だ。
禁書に手を伸ばす彼女の視界に、
良く見知った顔を見た気がした。
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禁書はきっとゲームブックだったんだと思います(上手い事言ったつもりか)